2013年11月17日

「ガンダムSEED-D SS明日があるなら(後)」


レイの生きている戦後を妄想した「明日があるなら」後編です。
今度はレイ視点で話が進みます。
果たしてレイの声は戻るのか?

では、どうぞ。



 人格崩壊の一歩手前まで行ったのに、そうならなかったのは、シンの存在があったからだった。
 シンがレイを現実に繋ぎ止めた。
 レイは生きなきゃいけない、例え少ない命数であっても、笑って泣いて生きていこうと。 
 約束しただろう、つないだ手は離さないと。 
 そう言ってレイを闇から引き上げたのだ。 
 だが、養い手を殺したという罪の十字架は、思いの外レイに重くのしかかった。
 ギルバート・デュランダル。
 世界中から否定された、可愛そうな道化師。 
 そんなギルバートの操り人形だった自分。 
 糸の切れたマリオネットは、その場に崩れ落ちて二度と動かない。
 自らの全てを捧げたギルバートを手にかけたのは何故か。今でもその理由を探りかねている。
『命は何にだってひとつだ! だから、その命はきみだ! 彼じゃない!』
『だから明日が欲しいんだ! どんなに苦しくても。変わらない世界は嫌なんだ』
 そんなキラ・ヤマトの言葉に未来を見、踊らされたからだろうか。
 ギルバートを撃つということは、自らを殺すと同意だった。
 それほどギルバートに耽溺し、全てを捧げていた。信奉していたと言ってもいい。
 その喪失感たるや生半可なものではなかった。よく胸にぽっかり穴が空いたという表現をするが、それ所の騒ぎではなかった。レイの場合、全身が抜け殻になってしまったかのように空っぽになってしまった。
 ともすれば襲ってくる喪失感と、そこから生まれる恐怖心に、レイは堪え忍ばなければならなかった。
 それに、早くからレイは知らされていた。自分がアル・ダ・フラガという人物のクローンであること。だから、テロメアが同年代の子供たちより短いということを。
 寿命を司るテロメアは加齢と共に確実にすり減っていく。伸ばすことはできない。クローンはオリジナルの年齢が生きた年数を引かれて生まれてくる。八十年生きる人が、六十歳でクローンを作ったとしたら、クローンは差し引き二十年しか生きられないことになる。
 自分は他とは違う。いびつな生き物だと思っていた。生まれてはいけない、呪われた生だと、そう思って生きてきた。
 しかし、シンは言ってくれた。
『レイはレイだ。俺は、今目の前にあるレイが好きだ! レイは綺麗な生き物だ、そんな呪い、俺が吹っ飛ばしてやる!』
 その眼のなんと真摯なことか。
 レイは嬉しくて、悲しくて、そんなシンをかき抱いたのだった。シンは喪失感もテロメアの絶望感をも和らげてくれる。
 病院のベッドでも言ってくれた。
「レイはメサイアで一度死んで生き返ったんだよ。もう、レイは自由に飛び立てるんだ。議長の呪縛から解き放たれて! さあ、行こう? 未来へ」
 レイには眩しすぎる言葉だった。
 でも、そのシンの言葉は殊の外レイの重りを軽くした。背に羽根でも生えたかのように、身体は軽くなった。
 シンはレイの太陽だ、光だ。
 まだ自分は生きていて良いのだと、罪は二人で分かち合おうと言ってくれる。
 不思議と死に直すことを思わなかったのは、これ以上の醜態を晒すのが嫌だったのと何よりシンに悲しみを送りたくはなかったからだろう。
 自分は飛び方を忘れた鳥だ。
 今はシンを目印に、一つ一つ自分自身を積み上げている最中だ。
 ある日の面会日のことだった。息せき切って病室に飛び込んできたシンは、挨拶もそこそこにレイの肩を掴んで報告した。
「今、テロメアの減り具合を緩やかにする研究がされてるんだって! 最近そんな論文が発表されたんだ。ここ退院したら、そこへ行ってみよう?」
 朗報だった。シンはこのことについても色々と手を尽くしてくれている。テロメアによる発作はしばらく出ていなかったが、治療法があるならどんなものでも試してみたい。
 この小さな希望も、レイの生きる気力と活力だった。
 声は失われたまま戻らないけれど。
 シンもそれを一番心配している。
 早く声よ戻れと、日々願っているのだが、声は未だ戻らない。
 シンと会話出来ないことが、もどかしくて仕様がない。シンの心配も申し訳ないと思う。
 些細な、たわいない話を早くしたい。
 焦りは禁物と知りつつも、つい焦燥感にかられてしまう。
「あ、う、…」
 声を出す練習をするが、出てくるのはひゅうひゅうと喉が出す息の漏れる音だけだった。
 その時、ノックの音がし、二週間振りにシンが病室を訪れた。
 手には花束を下げていた。レイはシンの持ってくる花をとても楽しみにしていた。花はいい、無条件に心を慰めてくれる。
 今日の花は、色とりどりのガーベラとかすみ草の組み合わせだった。
「レイ、元気?」
 後ろでに扉を閉めながら、シンはレイの様子を伺った。
 こくり、頷いて答える。
「花、いけてくるね…」
 空の花瓶を手に取って、病室から消える。
「………?」
 今日のシンは様子が何だかおかしい?
 すぐにレイはシンの異常を感じてとった。
 部屋に戻ったシンは枕元に花瓶を飾り、それをいじりながら、ぽつりと呟いた。
「あれから、もうすぐ八ヶ月だな…母艦のブリッジにいても傍らにレイがいないの、不自然でしょうがないよ」
「………」
 レイは何かを言い募ろうとしたが、シンがこちらを向かない。
「その寝間着も似合ってるね」
 今日のレイの寝間着はネイビーを基調ににグレイの縁取りがしてあるシンプルなものだった。
 話を無理矢理反らして、何だというのだろう。
「いつになったらレイの声は戻るのかな?」
 レイを振り向いた顔は、今にも泣きそうな顔だった。
 声について言い咎められることなど今までなかったのに。
「もう、嫌なんだ!」
 シンは突然ベッドに飛び乗ると、レイを挟んでまたがった。半身を起こしていたレイの顔に、シンの顔が迫る。そしてシンはレイに口づけたのだった。
 不意打ちに、レイは戸惑った。八ヶ月ぶりのキス。シンがずっとしたいのを我慢していてくれたのは知っている。だのに、何故?
 シンのキスは荒れ狂う嵐のようで、レイは甘んじてそれを受けた。
 シンの右手が首筋に回って、うなじの辺りをくすぐる。左手は、金糸髪をすいて遊ぶ。
 長い長いキスが終わって、シンはレイを解放した。
「レイと会話できないのも、声が聴けないのも…俺の名前を呼んでよ、シンって呼んで」
 シンは泣いていた。涙声で訴えかけられて、レイの心は痛んだ。
 鮮烈な赤い瞳が、涙に濡れている。
 この涙を止めてやらなければ、その為にはこの声を出さなければ。
 レイは必死の思いで声帯を震わせた。
「…シン……愛してる…」
「え…?」
 シンが顔を上げてレイを見た。涙は驚きで止まってしまっている。
「レイ、今…声が出た…?!」
「あ…ああ、そうだな」
 まだ掠れてはいるが、耳に入ってくるのは自分自身の声だった。久しぶりに使った声帯はまるで他人から借りてきたように現実感が乏しい。
「やった! レイの声だ! レイが治った!」
 シンがレイの両頬を手で包んで、額を合わせて来た。
「シンのお蔭、だ」
「キスが効いたのかな?」
「かも知れない…」
 シンはその態勢のまま、もう一度キスをした。今度は優しく、ゆったりとしたものだった。
 レイもじっくりシンを味わって、くせの強いシンの黒髪を両手ですいてやった。
 シンがくすぐったがる。笑い声が漏れてキスをしていられなくなった。
「レイ、どんな時でも希望はあるよ。明日があるなら、一緒に生きて行こう」
 明日があるなら。
 もう一度生きるために立ち上がっても許されるのだろうか。
 いいや、生きて行かねばならないのだ。
 幸い、自分にはシンがいる。
 一緒に生きていける相手が。
 犯した罪は消えない。でも、償っていくことは出来る。
 シンが言う通り、生きて行こう。
 明日があるなら…


以上、お姫様は王子様のキスで目覚めるというお話でした(笑
アカデミーの初期ではシンもこうだったのかな、と思いながら生きていたであろうレイ。
これから生きていく上で問題なのはテロメア。
ラウより早く発作が出るというのは解せない。レイはラウのクローンじゃなくて、あくまでアル・ダ・フラガのクローンなんでしょ? 受精卵の凍結かなんかで生まれてくるのが遅かっただけで。
なのに10年も早く発作がくる?
命数が少ない、少ないってそんな殺生な。
レイシン好きには夢も希望もないのかーと叫びたいです。
でも、ここのレイシンは幸せに生きていきます。この後は楽しい同棲生活が待っています。
ああ、楽しみだな〜


posted by 松風久遠 at 15:48| Comment(2) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんはー!
後編ありがとうございます!!
これからの同棲生活が楽しみですね!
レイシンはしがらみから開放されたら楽しそうな年相応のカップルになりそうです笑
2人で料理とかしちゃいそうです。ついでにつまみ食いしてシンが怒られそう笑
とにかく幸せな未来であってほしいです!
脚本の悪意に晒されたおかげで、目を覆いたくなるような結末でしたからね、本編は。
他人に媚を売りすぎる脚本もダメですが、自己満足もダメですよね。それを許す監督も監督です。公式のレイシン燃料投下まだですかね(⌒-⌒; )
テロメアの減少抑制で、少しでも長く2人が一緒にいてくれる事を期待します!


今更なんですが、ヴァルヴレイヴ見て来ました笑
なんとお父さん、レイの声ではありませんか
!遺伝子いじられる側からいじる側になるとは、サンライズ、狙ったのでしょうか笑
来週はサキちゃんがアードライに銃口を向けられていましたね。エルエルフがリーゼロッテにご執心の今エルハルエルを期待できなさそうなので、アードライに期待しているのですが。
サキフラグとか立てられたら私の心が折れそうです笑

久しぶりに長くなってしまいました(^^;;
レイシン小説ありがとうございました!!
また明日から月曜です笑
一週間お互い頑張りましょう(^-^)


Posted by どんちゃん at 2013年11月17日 21:40
こんばんわです。
テロメア問題さえなければ、レイシンは年相応なカップルになれるのに…
二人で料理! やりそうですね。萌えるわ〜
家事全般はレイがやることになりそうですが、シンはゴミ出しくらいしかしなさそう。
ちょっとずつレイがシンを調教していく課程が面白そうです。

本当に目を覆いたくなる結末でした。本編。
FINAL PLUSバージョンにしてもそれは変わらず…
シンルナ確定とキラの前で涙を流すシンに愛想を尽かせたものです。
監督もなー。サイバーフォーミュラや電童は好きだったけどな〜

そうです、ハルトのパパの声は関さんでした。
見事な人格破綻っぷりを演じていらっしゃいました。
流木野、ジャックが解けてしまったんでしょうか。
色々とアードライに期待しましょう。
エルエルフは果たしてリーゼロッテをさらえるのか?!
流木野フラグは立つのか?
今週を楽しみに待ちましょう。

ではでは。


Posted by 松風 久遠 at 2013年11月18日 15:56
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