2013年11月16日

「ガンダムSEED-D SS明日があるなら(前)」


戦後のレイとシン。
そう、レイがもし生きていたらという私の妄想です。
今更ですが書いてみました。
前後編です。

では、どうぞ。



 ダメージジーンズに包まれた脚が、階段を二段飛ばしで駆け上がって行く。
 右手には花束、左手には紙袋を抱えている。 ぬばたまの黒髪に、深紅の瞳。
 シン・アスカ、十七歳。今日はアーモリーワンにある軍の施設、病院へ一週間ぶりのお見舞いだ。
 あの悪夢のような戦争から七ヶ月。シンはまだザフトにいた。理由は簡単だ。他に出来ることがなかったから。オーブには戻りたくなかったし、力があるならそれを正しいことに使おうと決めたからだった。
 憎しみを糧に生きる…奪われる前に奪う…殺される前に殺す…まさに修羅の如き生き方では、何も守れる筈もなく、失っていくばかりだった。
 最終戦、ジャスティスを討とうとした際に割って入ったインパルスを邪魔だと切り捨てようとした自分自身が怖くなったのだ。守ろうとしたルナマリアを殺そうとした自分が。   
 それで目が覚めた。
 間違っていた何もかも。
 今では特務隊フェイスとして、一個小隊を率い、月軌道の哨戒任務に当たっている。
 ここは今日は一週間ぶりの休みだ。その休みを利用してやっと来られた病院に、はやる気持ちを抑えられずに足早になる。
 途中、看護師に廊下は走らない、と注意された。それでもシンは走らずにはいられなかった。一週間ぶりの面会だ。
「レイ!」
 個室のドアを開け放った先にいたのは、金色の長い髪を左の耳下で一つに結わえた佳人だった。レイはベッドに半身を起こして電子書籍に目を落としていたが、シンに気づくと、顔を上げて微笑んだ。
 レイ・ザ・バレル。シンの愛しい人。何より大事な宝物。
 メサイアよりシンが連れ帰ったレイは身体の傷は癒えても、未だ心の傷は癒えないでいた。ギルバート・デュランダルを殺したという事実はレイの生きる意味、生きていく力の根幹を粉々にした。レイの礎は破壊され、価値観はひっくり返り罪の意識だけが残った。
 ギルバートを撃つということは、自らのアイデンティティーを撃つということに等しかったのだ。
 粉々に散らばったレイの心は心的外傷後ストレス障害に陥り、レイから言葉を奪った。声が失われたのだ。
「お、か、え、り、シ、ン」
 レイの形の良い唇が刻む言葉をシンは読み取って答える。
「ただいま!」
 筆談をしようにも、手が激しく震えるので文字がかけない。故にアカデミーでも習った読唇術をシンが使うしかなかったが、それも難しく、長い会話は成立しない。
「はい、これ」
 シンは花束をレイに渡した。
 季節のコスモスと赤い薔薇の組み合わせだ。アカデミーにいた頃からレイは花を愛でていた。だから、シンはお見舞いの際には必ず花を持ってきた。レイを喜ばせる為に。
「あ、り、が、と、う」
 レイは愛おしげに花を見やり、シンに礼を述べた。
「あとは、バナナと林檎と桃があるよ」
 シンは紙袋から青果店で勧められた果物を次々とベッドの足下に並べて行った。
 レイは困ったような仕草を見せ、それから、
「り、ん、ご、が、た、べ、た、い」
「わかった。今、剥くね」
 シンはベッド脇のキャビネットから果物ナイフを取り出すと、不器用な手つきで林檎を剥き始めた。
 それは小学生の鉛筆削りのようで危なっかしく、レイをはらはらさせた。
 しばらくして、赤い線の所々残った林檎を八等分にして皿に並べ、シンはレイに渡したのだった。
 用意してあった爪楊枝で一つを刺し、レイは林檎を口に含んだ。
 しゃくり。
「お、い、し、い」
「本当? じゃ、俺も食べよ」
 シンも爪楊枝で一つを刺すと、口に運んだのだった。
 甘く、酸味の利いた紅玉だった。
 開け放たれた窓から、良い風が部屋に吹き込んだ。レースのカーテンが膨らんで、しぼむ。
 穏やかな午後。
 レイもザフトを除隊扱いにはなっていない。フェイスのまま、長期療養中となっていた。
 シンは思う。
 自分の欲した力とは、兵力ではなく、この目の前の人を救ってあげられる力だった。
 今、自分はその力を持ち合わせていない。どこまでも無力だった。
 花瓶に生けられたコスモスと薔薇がレイの美しさを引き立てている。
 レイはいつ言葉を取り戻すのだろう。
 いつになったら退院できるんだろう。
 シンは焦っている。自分が終戦で吹っ切れた分、レイに全ての重荷を背負わせてしまったようで。
 そんな不安はお首にもださず、シンはレイを見やる。
 レイに訊かれたことがある。入院直後、最も彼が不安定だった時期に、どうして自分だけをあそこから助け出したのか、と。
「俺もギルと一緒に逝きたかったのに」
 シンは答えた。
「レイに生きていてほしいから。ずっと側にいたかったから。どんな命でも、生きられるのなら生きたいだろうってそう言ったのレイじゃないか!」
 確かな答えをあげられないまま、そしてレイは言葉を失った。
 時が経ち、精神的にも余裕が出てきた頃、病院着が痛々しくて、寝間着を買おうとシンは提案した。
 電子カタログを二人で見つめながら、あーだこーだと言い合い、併せて七着、一週間分の寝間着を買った。
 今日は蒼いタータンチェックの寝間着を着ている。毎日違う寝間着を着る、それがレイの密かなお洒落だったのだ。
「桃もバナナも美味しいよ?」
 シンは林檎だけでは飽き足らず、桃の皮を剥き、ぺろりと食べ、バナナの皮まで剥き始めた。
 クツクツクツとレイが笑い声を出した。
 見舞いにやってきた本人が土産ものを食べてしまうとは。全部ではない、ほんの一部ではある。相変わらず自由なシンにレイは笑いを誘われたのだ。
「レイも食べなよ」
 バナナを渡すが、レイに丁重に断られてしまった。
「病院って暇じゃない? 俺も半年いたけど退屈過ぎて死にそうだったよ」
 レイは首を振った。
 傍らに置いたタブレット端末を右手で叩いた。
「本があるってか。レイは相変わらず読書家なんだな」
 目の前でこくりと頷かれた。
 薄氷色の瞳が、おまえもたまには読書をしたらどうか、と言っている。
「俺は本は漫画だけでいいよ…」
 レイはやれやれと頭を振り、両手を上げ下げした。
 だからおまえは駄目なんだ、と言って欲しかった。あの澄んだ低い声で。
「今度会えるのは二週間後だな。アルザッヘルが再建されてないか見張りに行くんだ」
 ふと、レイの顔が曇った。
「寂、し、い、な」
「そうだよなー、俺もずっとレイといたいな」
 叶えばいいのに、叶うことのない夢。
「もう面会時間終わりだな…帰らなきゃ」
 病院内に面会時間終了の音楽が館内放送に乗って流される。
「また来るね。二週間後に。じゃあね、レイ」
 ベッドから離れようとしたシンの右手を、おもむろにレイが掴んだ。
 双眸が不安げに揺れている。
 シンはレイの両頬に順番にキスをして、ベッドから離れた。
 ドア口で今一度、レイの姿を目に写す。レイは微笑して手を振っていた。
「じゃあ、またね」
 シンは病室を出た。後ろ髪引かれる思いで。
 シンは夢見る。
 レイが白を着て指揮を執り、その右腕として自分が働く…そんな日が、いつか来るように……祈っている。



シンがレイのために林檎をむいてやるというシーンが書きたいがために書いたようなものです(笑
レイの精神も随分癒やされて、あとは声が出せるかどうかだけ、という状況。
シンがお見舞いに足繁く通う姿に萌える私。
続きは明日。お楽しみに!





posted by 松風久遠 at 15:33| Comment(2) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんはー!

シンもお兄ちゃんですしね!誰かにリンゴ剥いてあげたり世話やいたりするの、本当は好きそうですよね!

というわけで、小説ありがとうございます!
後編は明日ですよね!待ってます!!

そして感想ですが、
レイお洒落!素敵です!さすが貴公子笑
実際2日続けてパジャマ着なさそうです。彼なら。
不安気にシンを掴んでしまうレイ。そうですよね、議長っていうか生きる意味そのものを失ったレイが、シンまで失ったら、今度こそ声だけじゃなくて命まで失いそうです。
代償なしで生還なんてするわけないですよね。
でも生きててよかった! レイがそう思えるのがベストですよね!


あと、私もレイに白服着てほしかったんです!
絶対似合いますよね!
その隣にシンが、く、黒服で、? 赤服のままでしょうかね笑
シンの昇進や人事で一般兵とレイがもめたら少し笑えますが。

ではっ!
明日を楽しみにしております!!

Posted by どんちゃん at 2013年11月16日 20:01
こんばんわです。

そうです、シンはお兄ちゃんなんです。レイのお世話もせっせと焼きますよ。
レイはお洒落さんなので毎日違う寝間着着ます(笑
メサイアからレイを助けたのもシンですから、シンがいなけりゃレイは生きていけません。
本当に、レイが生きてて良かったと思えるのがベストだと思います。
大変だと思いますが、議長のことは忘れてもらって。

レイの白服は私の願望です。
復隊したらフェイスの白服でバリバリ働いてもらいたい!
シンは赤服のままで(笑
シンは赤服が似合ってます。
まぁ、フェイスですし、昇進はしなくってもいいかなーと。

ではでは。
Posted by 松風 久遠 at 2013年11月17日 16:10
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