2013年09月29日

運命以前21


長い間休んで申し訳ありません。
一日遅れですが、運命以前第二十一回をお送りします。

ではどうぞ。




21 サバイバルゲーム


 レイのことが好きだ……それは動かしようのない事実で。
 肌を重ねるごとにその想いは強くなる。
「れい……好き」
「俺、も」
 身体の奥深くまでレイを受け入れながら、シンは熱い吐息を漏らす。
 持ち寄った熱を交換し、二つの身体が溶け合って、まるで一つの生き物になってゆくようだ。
 幸福感に満ち足りていた。
 今は、まだ………

 時は流れて翌年四月。シンもルナマリアも一度もAクラスに落ちること無く、Sクラスの上位十名に食い込む程に成績を上げていた。
 この日はAクラスSクラス合同でサバイバルゲームが行われる。五人一組のチームを組み、山岳地帯に入ってリーダーの持つ旗を争って戦う。
 ゴーグルを付け、迷彩服に身を包み、ペイント弾を込めた小銃と拳銃を装備として持つ。
「リーダーはアスカがいいと思うんだけど」
 アグニがメンバーに提案する。
「俺は異存なし」
 ラゴウが承伏した。あとの二人もそれでいいと言った。このうち一人はアクト・アマウラといい、もう一人はテルル・タイラといった。
 ルールはペイント弾を受けたら退場、リーダーが旗を取られたら無条件でその班は失格。最後まで残ったチームが優勝。
「俺がリーダーなんて務まるかな」
 シンが弱音を吐くが、アグニが持ち上げる。
「大丈夫だって。シミュレーターのデブリ戦でもルナマリア嬢を上手く誘導してたじゃん」
「そうだよ。頼りにしてるぜ、リーダー」
 ラゴウがシンの肩を叩いて、小銃を肩に担いだ。
 サイレンが鳴り響いて、各チームが山へと入っていく。シンたちも山に入った。そして比較的見つかりづらい窪地に身を寄せた。
「まずは様子を見る。底辺の奴らが潰し合うのを待つぞ」
 シンは端末の地図を表示させ、現在地を確認する。
「狙いはあくまでレイ班だ」
「だな」
 アグニが頷く。
 小一時間が経過して、アクトとテルルが偵察に出てくると言い出した。
「気をつけろよ」
「あと、深追いはするな」
 シンが念押しする。
「わかってる」
「だいじょぶじょぶ」
 アクトとテルルはそう言い残して行ってしまった。
 三十分程して二人は無事戻って来た。旗を三つも土産にして。
「後ろががら空きだったもんで」
「人数が減ってる班を狙ったら、ドンパチやった後だったみたいでさ」
 相手が既に手に入れていた分まで、ちゃっかり頂いてきたという訳だ。
 全部で八班。これで残りは多くても四班だ。
「そろそろ動くか」
 シンが腰を上げた。面子の顔を見渡してから、歩き出す。
 間もなくして前方から足音が聞こえてきた。シンたちは木の陰に身を隠し、息を潜める。
 相手はシンたちの存在に気付かずに、前を通り過ぎていった。シンの合図を機に飛び出し、背後を取った一同は、一斉に発砲した。
 相手も五人だったので、五人ともにペイント弾が命中した。
「くっそーマジでか」
 ペイントまみれになりながら、標的たちは負け惜しみの談を述べた。
「やっだぁ、これ、とれるんでしょうね」
 ゴーグルのせいで分からなかったが、このチームの中にはルナマリアも在席したようだ。
「ルナ!」
「シン? シンだったのね! どうりで気配を断つのが上手いと思った」
「そう?」
 しばしのご歓談の後、シンは我に返った。ルナマリアと楽しく話してる場合じゃない。
「旗を出せ」
 シンが要求すると、そのチームのリーダーとおぼしき人物が旗をおずおずと差し出した。
「じゃあね〜」
 ルナマリアが手を振りながら仲間たちと退場して行った。
「これで四本っと」
 テルルが集めた四本の旗を頭上に揚げた。 残りは三つ。レイたちなら二組くらい余裕でこなしているに違いない。
「残りはレイ班だけと見る」
 シンが言うと、
「俺もそう思う」
「俺も」
 アグニとラゴウも続く。
「俺ならここで網を張ると思う」
 地図のある一点を指しながらシンが言った。
 そこは小規模ながら盆地の入り口だった。
「それを逆手に取って、逆に中へ誘い込めれば」
 中は盆地だ。隠れられる高台がある。
 五人は相手が盆地内に入って網を張っていないことを祈ってそこへ向かった。
 盆地の入り口付近には人影らしきものはなかった。罠もない。
「俺とアグニは中の高台で待ち受ける。ラゴウ、アクト、テルルは敵を発見次第、ヒット&アウェイでここへ誘い込む。絶対に罠だとは諭されるな。いいな」
 シンがてきぱき指示を送った後、五人は円陣を組み、右手を重ねて叫んだ。
「取るぞ!」
 一同は散開した。
 シンとアグニは盆地へと足を踏み入れた。雑草だらけだが、足場は悪くない。
 正面の急勾配な坂を登って腹ばいになると、敵が現れるのを待った。

 ラゴウ、アクト、テルルの三人はレイ班を探しながら、森を彷徨っていた。ふと、ラゴウは前方右の窪地に小銃の筒先が光ったのを見た。
「見つけたぞ」
 アクトとテルルにその居場所を教える。
「呑気に作戦立案中か?」
 アクトがごく小声で言う。
「そうみたいだね」
 テルルが頷く。
「二人くらいは潰しておきたいよな」
「うん、出来るだけ初手で潰そう」
 ラゴウの意見にテルルが賛同する。
 三人は窪地の前に躍り出ると、拳銃を放った。突然の奇襲に、反応が遅れた相手のうち二人にペイント弾が命中していた。
 それを確認すると、三人はそこから走り去って盆地へ急いだ。
 途中、何度も木陰に立ち止まって、相手が追いすがってくるのを確認する。撃っては隠れ、撃っては隠れ、確実に獲物は罠にかかろうとしている。
 盆地に飛び込んできたのは、レイ、アンラともう一人だった。罠だと気付いた時にはもう遅い、正面からシンとアグニが坂を下ってきて小銃を構えた。背後には回り込んだラゴウとアクトとテルルが拳銃を構えている。
「レイ、ゲームアウトだ」
 レイは武器を構えるまでもなく、シンの放ったペイント弾を顔に受けた。
 アンラともう一人もペイント弾を各自受け、降参のポーズを取った。
「やるじゃないか、シン。よもやおまえにやられるとは想像もしなかった」
「へへへ、すっげぇだろ」
 シンはレイに笑いかけたが、アンラを見つけると、ふっと表情を硬くして、
「今までのお返し」
 とペイント弾をその整った美しい顔に放ってやった。オレンジの花がアンラの顔に咲いた。
「!」
 アンラは、仕方ありませんね、と小さく呟いた
「旗コンプリート!」
 テルルが旗を掲げて叫んだ。
 こうしてサバイバルゲームはシンのチームの優勝に終わった。

 近頃、レイの態度がよそよそしいと思うのは、思い上がりだろうか。
 特にアカデミーの中に設けられた幹部養成所「戦技研」に入ってからこっち、レイが冷たくなったような気がする。
「戦技研」には、アンラ、レイ、シン、ルナマリア、アグニ、ラゴウの六名が入所した。
 ナイフ戦、シミュレーターを使った宇宙戦、プログラムパターンの解析、射撃、爆薬処理、情報処理と様々な訓練を一通り受けてきたが、より高度な教育が施されるのが、この戦技研である。
 飼い犬がその範疇を超えて己の領域を侵してきたら、レイはどうするのか?
「俺は完璧でなければならない。俺に出来ないことはない。俺は常に一番でなければ意味が無い」
 などと言っていたレイは、今シンが背に迫っていることをどう思っているのだろうか。
「ふふーん。レイに恋い焦がれちゃって、思い悩んでお年頃だし、至極当然じゃない」
「ん? 恋だって?」
「レイとラブってるじゃない」
「俺、レイとレイと恋愛してるんじゃない。そんな甘ったるい感情、男と男の間に生まれるもんか」
「えーーーッ、そうなのかしらー?」
 思いっきりつまらなさそうなルナマリア。
「そうだよ、やるかやられるか、生と死をかけた攻防だぞ、これは」
「恋をすっ飛ばして愛なのね、たぶん。尚のことさっさと添い遂げちゃえばいいのに」
 実はもう添い遂げていたのだが、ルナマリアにはまだ黙っていた。
「やだよ、タダでそんなことすんの」
「愛を確かめ合えってのよ」
「代価もないのにキモチ良くなるためだけにやる意味なんて、俺にはない」
 精神的余地がない。肉体的につらいのもこれ以上は困る。
「何それ。かわいくなーい」
 ルナマリアの足の歩みが止まる。
「超自分勝手、自己中。シンって自分のことしか考えてないガキよ」
「ど、どこがだよ」
 図星だった。自分のことだけ考えて他人はどうでもいい。そういう生き方が許されると思っている。
「レイが可哀想よ」
「何だよレイが俺に恋してるとでも言う気かよ。レイは俺が珍しいから面白がって構ってるだけなんだぞ。好奇心を満たしたいんだ単に。あと、おせっかい」
「そりゃーあんたがあんまりアホすぎて、おまけにダメダメッ子で意表を突かれたレイが珍しがったってのはあるわよ。放っておくのもいたたまれなかったんでしょうよ」
「うっ」
「でもそれだけの理由であのレイがあんな愛情溢れる笑みを向けることなんてことあるわけないのよ」
 レイの微笑み。自分はそれに救いを求めている。
 考え込むシン。
「いくらMSを上手く操れたって、ナイフや銃を使いこなせたって、手に入らないのよ、愛は」
 掴みかけた愛を自ら遠くへ押しやるのは愚かだと言うルナマリア。
「紳士的、誰に対しても一定の距離を保つレイが、主義を崩してあんたにだけは意地悪するし、からかうし、感情を表に出す。好いているのは間違いないわ」
「でも、レイが戦技研に入ってから冷たいんだ。ついに俺に愛想つかしたのかもしんない::どうしよう、ルナ」
「うーん、レイは一番に固執しているから:あんたに追い抜かされるのを恐れてるのかも知れないわね」
「どうしよう、俺、手ェ抜いた方がいい?」
「バカね。それこそレイのプライドに傷をつけるわよ。今まで通り必死にやんなさい」

 黙ってレイのベッドに滑り込み、シンは背中から抱きしめる。なるべくそっと。
「ごめん、レイ。俺、レイのプライド傷つけてるよな。どうやったらレイに許してもらえるのか考えてもわかんなくって。俺、自分で自分のこと勝手な奴だって思うよ。レイが何をしてあげたら喜ぶのかもわかんないんだ。ずっと一緒にいんのに、そんなこともわかんないんだ、俺。何も知ってないんだ。俺は俺のことばっかりなんだ。わかってるんだ、こんな自分がたまに嫌でたまらなくなったりもするんだ。例えば今がそうだよ。俺は俺が嫌い。でもレイにだけは嫌われたくない」
 シンはレイの背で震えた。
「結局さ、これしか思いつかなかった。口は無理だけど手でならしてあげられる」  
 と言って、後ろから前へ手を回し、レイのものをつかみ出す。
「シ……」
「これで許して」
 言葉を遮るように首筋に顔を埋める。心地よい柔らかな髪を、唇でかき分けて、首の付け根を甘噛みする。
 レイが震える。
「あ……っ、あう……」
 耐性がないのか、思いの外声を上げるレイ。艶やかに引きつれる声に煽られて、シンはレイがどんな顔で喘いでいるのか見たくなる。肩を引いて体勢を仰向けに向かせる。
「レイ……」
 口づけ。レイが放ってもシンはすぐに口づけをやめなかった。
「わかった、もうわかったから」
 手淫で不機嫌を直せると思っている、シンの考えの浅はかさに、あまりの子供じみた答えにレイは嘲笑を覚える。
 自身で認めていたように、シンは己で手一杯。
 何を言ってもシンには届かない。言葉はシンに真実を伝える前に死ぬのだから。
 自分の求めるもの以外は撥ね付けてしまう、そんな状態だから。
 愛を囁くことすら無意味なのかも知れなかった。
 そしてレイは潔く諦め、折れた。
 翌日、これまでと同じように、おはようと口をきいてやったら、シンは心底安堵したように、破顔した。跳びはね、喜ぶ姿を見て、レイは幾ばくか淋しくも思った。

 その夜、シンは夢の中で、またあの荒野に立っていた。背後に死に神。鎌が振り下ろされる前にシンは素早く、振り返った。
 死に神の正体を確かめるべく、その目深に被ったフードを取り去った。
 そこに立っていたのは、シン・アスカだった。死に神の正体は自分。
「自分で自分の首を絞めてる気分はどうだった?」
 死に神が面白がって言う。
「うるさい! 消えろ」
 散々苦しめられてきた悪夢が、自分のせいだったなんて、思いもしなかった。
 自分自身と向き合ってこなかった罰だ。
 そしてシンはこれからもそれをしないだろう。

 もうやめてくれ。
 もういいじゃないか。
 もう許してくれよ。
 もう思い出したくないんだ。
 もう忘れたいんだ。
 もう俺を苦しめないでくれよ。
 お願いだ。

『お兄ちゃん、ヒドイよ。
 お兄ちゃん、マユたちのこと忘れたみたいに毎日楽しそうに笑って過ごして、マユたち以外に大切なものいっぱい作って手に入れて生きてくんだね。
 お兄ちゃんだけズルイよ…
 それだけじゃない。
 お兄ちゃんが愛していたのはマユとお父さん、お母さんだけなのに、誰かに愛を与えられて、受け入れようとしてる。お兄ちゃんもその人の愛に応えて自分も愛を注いであげたいと思い始めてる。
 ヒドイよそんなの許さない。
 お兄ちゃんは傷みを忘れちゃいけないの。だって、お兄ちゃんがマユたちを思い出してくれなきゃ、マユたちはどこへ行くの? 消えてなくなるの。
 それともお兄ちゃんはマユが二度も死んでいいの? 平気なの?
 お兄ちゃんはマユのもの。
 ずっと、ずっと。
 お兄ちゃんはね、幸せになんてなっちゃいけないんだよ』

 そうだ、
 家族の仇をとらなきゃ。
 恨みを晴らしてやらなきゃ。
 その為に俺は傷みと憎しみに生きるんだ。
 その為に生きてる、生かされてる。
 幸せなんか求めようとして、俺はなんてバカなんだ。

 レイのことは愛してあげられない。
 愛せないけど。
 いつかレイが掴んで離すなって言った手は離さない、離したくないんだ。
 俺の愛はもうないんだよ。家族のためにしかない。マユがさ、怒るんだよ。お兄ちゃんヒドイって。
 俺、幸せなんか探しちゃいけないんだ。憎しみにしか生きられない。
 そういう運命だ。
 好きだよ、愛してるんだよ、そう言いたくてたまらない。そう告げられたなら、どんなにレイは喜んでくれるか、微笑んでくれるか。
ごめん、レイ。ごめんね、レイ…


                                        つづく。

サバイバルゲームが安易すぎるという苦情は受け付けません。
季節が飛びすぎ? そんなにネタがあるわけないじゃないっすか。
残すところあと二回。どうぞおつきあいください。




                                          つづく。


サバイバルゲームが安易すぎるという苦情は受け付けません。
書けるわけないじゃないっすか。
季節が飛びすぎ? そんなにネタあるわけないじゃないっすか。
残すは最終回。どうか最後までおつきあいください。

posted by 松風久遠 at 16:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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