2013年09月21日

運命以前20


運命以前第二十回をお送りします。

今日は楽しいナイフ戦の教練。
そこで事件は起こる。

では、どうぞ。




20 ナイフ戦


 こんなもんじゃない
 俺はこんなもんじゃない
 可能性に限りは無い
 限界の更に向こう側へ俺ならいける

 負けるな
 戦え
 戦うことが生きる運命ならば!!

 ガンダムの一部をいじれる実技があると、テンション上げ上げのヨウランとヴィーノを羨ましげに見ていたシンだが、時同じくして始まった、ゲーセンの筐体を何倍も凄くしたような本格的なシミュレーターの授業に興奮する。
「すげーおもしれー。高度なシューティングゲームだもん。何方向からも発射されるビームをくぐり抜けて、敵機を一撃で落とす快感たらないよ」
 シミュレーションとはいえ、シンはビームで打ち抜いた敵機にも人間が乗っていること、ボタン一つ押すだけで命が一つ消え、自分が命を一つ奪ったことを考えもしない。まるでゲームのノリだった。
「ゲームじゃねぇだろ、訓練だろ。おまえ、その辺分かってんのかよ」
 ヴィーノに釘を刺されて取り繕うシン。
「えー…あーうん、分かってるよ、バカにすんな」

 ここへ来て、シンの追い込みは凄まじかった。実技においては持ち前の才能を発揮し、苦手としていた座学にも力を入れて取り組むようになった。
 気が付けばSクラス入りを果たし、レイの背中が見える所まで来ていた。
「よ、シン・アスカ。おまえなら必ず上がってくると思ってたよ。俺、アグニ・ニルバーナ。よろしく」
「俺、ラゴウ・バルハラ。よろしくな」
 シンのことを待っていたという二人が寄ってきて、友達になった。見たことのない顔だったので、前期は別のクラスだったのだろう。聞けば二人ともオーブにいたのだという。同郷のよしみもあって、直ぐに二人とは打ち解けた。敵対心のない相手から声をかけられたのは初めてだったので、少し戸惑ったが、慣れるとそれも平気になった。
 成績が飛躍的に上がったのには、MSシミュレーターでの戦績がS級だったのが大きい。 あの正確無比で一目置かれるレイのビーム連射もするりとかわし、一撃をお見舞いすることもあった。
 シンはこのMSシミュレーターによる訓練を気に入っていた。GATーX105ストライクのコックピットが完全再現されており、操縦感覚も本物と変わらない。スクリーンに映し出されるのはバーチャルだったが、緻密で精緻な画面もほとんど実物と変わらなかった。
 シンは子供の頃通ったゲーセンのアーケードゲームにMSを真似たものがあって、それに夢中になったことを思い出す。
 あれよりずっと精密なゲームをしているのと同じだった。感覚的には。

 十一月を過ぎて十二月の花は「ヒマラヤ雪ノ下」。ヒマラヤ、シベリア地方に多くて、寒さに強く、冬でも常緑の葉を雪の下からのぞかせていることから。
 または、「雪の下科」であるところから。
 ちなみに十一月の花は「柊」だった。
「また、行くのか」
 レイが部屋を出て行こうとするシンに声をかけた。
「うん、特訓してくるよ」
「ご執心なことだな」
「レイも行けばいいのに」
「俺は授業だけで十分だ」
 MSシミュレーターは生徒に広く開放しており、予約さえ入れておけば、放課後も自由に使えるのだ。
 
 シミュレーターを使った授業は毎日行われる。教室にずらりと並んだシミュレーターポッドは二十機にも及ぶ。各ポッドはオンラインで繋がっており、対戦は生徒同士で出来るようにもなっていた。
 今日もシンは胸躍る思いでポッドに入った。一人になれる、心地良い空間。落ち着く。それはイヤホンで音楽を聴くことによって手に入る世界と似ている。外界から切り離された空間。
 頭が冴えていくのと逆に、高揚する気分。
 燻る火種が炎を吹き上げる。
 憎しみと怒りが瞳に爆ぜる。闇のゆらぎが火花を放つ。
 前方左右、パネルに広がる仮想世界に敵機が現れる。
 あれは俺の憎しみだ。
 憎しみを撃て。
「The bluebird flies away!」
 シンはフルスロットルで飛び出した。得られる浮遊感。地表に降り立ち、走る。MSはシンの思い通りに動いた。まるで自分の手足を動かしているようだ。
 敵を減らすだけ、胸の鉛が削られていくんじゃないかという、淡い錯覚。
 シンは天才的な操縦技術を見せる。
 レイとただ二人、ラストステージに進むが、レイには一歩及ばず。
 ポッドから出て、レイに独り言ちた。
「あーあ、もうちょっとでレイに勝てそうだったのに。落とされなかったけど、最後のデカブツ時間切れだもん」
「あいつは三発目の砲を撃った後に、一、五秒のスキが出来る。そこを叩くといい」
「そうなんだ。そこまで分析してらんなかった。レイはやっぱスゴイなぁ」
 同じプログラムもこなしてもこの差である。
 操縦技術は置いておいて、作戦立案など指揮官としての才能がレイにはある。
 シンはその作戦立案が苦手だった。だから、レイに作戦を立てて貰って、それに従って敵を撃つというのが最も完成されたプランだとシンは思った。

「これで条件は揃った。いよいよオレが誕生日にやったメディアの出番だ」
 ヴィーノが珍しく単品でコンタクトしてきた。
「これ、端末からマザーフレームまで到達してちょこちょこって書き換えちゃうんだ。まァ即興だから少し不具合出るかもだけど」
 それはMSシミュレーターの追加装備改造プログラムだった。ホーミングレーザーを装備出来るという。
 シンが以前熱く語っていたモノである。
 そのシンが好きなゲームにちなんで、名付けて「ZーOーE」プログラム。
 ヨウランに知れるとうるさいのでこっそりと。
「えーと、確かこの辺にスロットが……あ、あったあった」
 ヴィーノがシミュレーターの前方にあるスロットのカバーを開けると、メディアを差し込んだ。
「ホントにホーミングレーザー撃てるの? 超わくわくするんだけど!」
「ウム。案ずるより産むが易し。やってみそ」
「わぁい」
 シンはポッドに乗り込むと、早速兵装の確認をする。すると、武器の欄に「ホーミングレーザー」が追加されていた。
 装備を指示し、戦闘に出る。敵機の数を最大にセットした為に、前方から大量のMS軍が押し寄せて来た。
 それらにカーソルを合わせて次々とロックオンしてゆく。ぎりぎりまで引きつけてから、ビームを放つ。
 大量の敵が大量のホーミングレーザーによって屠られて散っていった。七、八割の標的を自動追尾して撃破したのだ。
 恐るべき兵装である。
 フリーダムの全門放射など話にもならない。
 シンは興奮気味にポッドを下りた。
「すっげー! 単発のビーム砲なんかより、ずっと気分が良い。こう、手で命を踏みにじる感触がさ」
 興奮するシンを鎮めようとしたのか、ヴィーノが諫めるように言った。
「まぁ、バーチャルの中でだけだ。現実であの兵装はムリがある。殿にバレた時の為に言っとくけど、これバーチャル。リアルと混同すんなよ。何かおまえ色々危険みたいだから。ま、お遊びお遊び」
「うん、わかってるよ」
 シンはひとしきりホーミングレーザーを楽しむと、大人しくプログラムの入ったメディアをヴィーノに返した。
 ヴィーノはまた改良を加えて完璧なものを作ると豪語していた。

 ルナマリアがSクラスに上がってきたその日、ナイフの教練があった。
 ナイフの保管庫からAー4の自分に割り振られたナイフを持って外に出た。
 いつもより少し重い気がしたが、ただの気のせいだと思って放っておいた。
 ナイフ戦の成績もシンは優秀で、Sクラスの生徒を易々と破っていた。
 今日はデモンストレーションとして、シンが教官と戦うことを指名された。
「アスカ! やっちまえ!」
 日頃からしごかれているアグニが檄を飛ばした。ラゴウも続く。
「がんばれよ、アスカ!」
「シン、がんばって!」
 ルナマリアが叫んだ。
 シンは応援を背に受けながら、一抹の不安に襲われていた。なにかがいつもと違う。
 その不安が何か分かる前に、実戦が始まった。
「さあ、来い、アスカ!」
 試しに教官の鼻先を掠める一撃を放つが、紙一重でよけられる。先読みをして避けた先に来るであろう場所にナイフを出したが、それも避けられる。
「ちっ」
 シンが舌打ちする。
 体勢を低くして、ナイフを前に出す。リズムを取りながら、教官の攻撃を待つ。
「それ!」
 右、左、右と教官のナイフを避けた。最後に避けた動作のまま、教官の背後を回り、右腰辺りに一撃を放った。
 教官にとっては死角だったろう。
 だが、試合はそこで終わってくれなかった。
 シンのナイフは皮膚の上でぐにゃりと曲がる筈だった。シリコン製の危険の無い、殺傷能力も無い只の模造刀。
 だが、ナイフの刃は教官の皮膚を突き破り、肉を切り裂いて骨の辺りで止まったのだ。
 肉を断つ感触がダイレクトにシンの指指に伝わり、気持ち悪さがシンの表情を歪ませた。
 歪んだ顔に、血しぶきが飛んで真っ赤に染めて行った。体操着にも足にも飛び散った。
 最初に叫んだのは誰だったろう。
 騒然となる演習場で、シンの時間だけが止まっていた。
 走ってくる、ルナマリアとアグニとラゴウ。そして、レイ。
「どうなってる!」
「あたしにもわかんないわよ」
「おい、アスカしっかりしろ」
 アグニが血ぬれの頬を叩いたが、反応はない。
「これ、模造刀じゃない、本物だ!」
 ラゴウが倒れた教官の腰に埋まったナイフを見て言った。
「手違いか?」
「そんなバカな」
 アグニとラゴウが言い合っている間に、担架が運ばれてきて、教官をナイフごと病棟へ連れ去ってしまった。
「シン、しっかりしろ」
 レイがシンの目の前で肩を揺すった。
「レ…イ……俺、俺、知らなかった…んだ」
 やっと我に返ったシンは、どこか意識がはっきりしていないように、危うかった。
「本物だなんて、思わなかった……俺、人殺ししちゃった……?」
「まだわからない。詳しいことは後だ。ともかく、その血をどうにかしよう」
 レイはシンを連れて洗い場へ行った。顔を洗わせるが、なかなか血は落ちない。何度何度こすっても、排水口の吸い込む水は赤らんでいる。
 そこへ話を聞きつけた教官や職員たちがやって来て、シンに告げた。
「着替えたら、職員室に来るように」
 むせかえるような血の臭いに、顔をしかめながら職員たちは立ち去った。
 シンはレイに促されると、制服に着替え、血まみれの体操着はランドリーに出した。
 それからレイに送り出されて職員室に入った。
「あなたの回りではどうもトラブルが多いようですね」
 女性職員がシンの対応に当たった。
「あの、教官は生きてるんですか?」
「医師の見立てでは命に別条はないそうよ。ただ、刃が大分深く刺さっていたようだから、手術が終わってみないことには、ね」
「俺、知らなかったんです。本物のナイフだったなんて……!」
「本当に? あの教官には随分楯突いていたみたいだけど」
「だからって殺しやしません。誰かが入れ替えたんだ」
「誰かに恨まれているとか?」
「それは……わかりません」
 逆らってばかりの学生生活だったから、敵も多くて絞れるものではなかった。
「そりゃ、多少は楯突いたこともあったけど、あの教官は真面目にナイフの使い方を伝授してくれました。手取り足取り目をかけてくれて……!」
「わかったわ。あなたに故意はなかったということね」
「はい、模造刀だと思っていたから思いっきり刺したんです」
「手術が終わるまで、職員室にいるように。そこのソファに座って待っていなさい」
 はい、とシンはしおれた花のように俯いてソファに座った。
 一方廊下では、職員とシンの会話を耳ダンボで聞き耳を立てていた、ルナマリアとアグニとラゴウの姿があった。とりあえずレイもいる。
「なんとか分かってもらえたみたいだな」
 アグニが呟く。
「手術が終わるまで拘束かぁ」
 と、ラゴウがため息を吐いた。
「もう、シンったら。あたしがSクラスに上がったその日にこんな大問題起こすなんて!」
「それよりおまえたち、授業はまだまだ終わらないぞ。次は座学が待っている」
 レイが三人を戒めた。
 四人はぞろぞろと連れだって、座学の教室に向かった。

 手術が無事に終わったと聞いて、シンは女性職員と共に病棟に向かった。
 しかし、面会謝絶で絶対安静の教官とは会えなかったが、ガラス越しに様子を伺うことは出来た。
 シンは眠る教官に一礼した。
 危うく殺す所だった。ナイフを持った時の違和感をどうして放っておいたのか、気のせいで片付けた自分が悔やまれた。あの時、確かめてさえいたら、こんなことにはならなかった。シンは深く自分を責めた。
「お見舞いはまた、容態がおちついてからにしなさい」
「はい…そうします」
 シンはガラス窓にくっつきながら、ぼんやりと答えた。

 その頃レイは廊下でアンラに詰め寄っていた。
「おまえだな」
 いや、正しくはアンラの息のかかった者の仕業だと、レイは糾弾していた。
「そうだといったらどうします?」
「おまえとはもう口をきかない」
「随分と可愛らしい罰ですね」
「どうしてこうもシンにちょっかいを出す」
「前にも言ったでしょう。寝た子はつつかないと起きないと。シン・アスカには覚醒して貰わなければならないんです」
「覚醒?」
「病を撥ね除けるほどの衝撃を与えてね。ギルバート様から仰せつかっているのです」
「ギルが黒幕だというのか」
「そうなりますね。やり方は一任されていますけど」
「シンが壊れたらどうする」
「そうさせない為に、貴方がいるのです」
 アンラはきっぱりと言い放った。
「今日もケアよろしくお願いしますね」
「言われなくとも……だが、次はないぞ。次何かあったらおまえとは絶縁する」
「それは恐ろしいことですね。せいぜい肝に銘じておきますよ」
 いけしゃあしゃあと言い残してアンラは去って行った。
 レイはギルバートの真意を読み取れずにその場に立ち尽くした。
 シンを覚醒させるためにアンラを使って、シンに揺さぶりをかけたというのか。
 そうまでして、シンに何があるというのだ。
 レイには何も分からなかった。

 レイが夕食を済まして部屋に戻ると、シンが飛びついてきた。
「レイ! レイ!」
「シン……今日は大変だったな」
 シンがキスをねだるので、レイは甘んじて唇を重ねてやった。
 ぺちゃくちゃと水音が部屋を満たす。
「嫌じゃないな?」
「えーと」
「拒否するなら今のうちだ」
「うん、いいよ?」
 そしてレイが崩れる瞬間を見た。もう引き返さない、やめるといわれてもやめない。
 再び口づけを求め合う。どちらも夢中。
 薬の副作用で口が渇くというシンに、レイは大量の唾液を流し込み、シンの口端からそれが溢れ出す。
 レイは徐々にシンをベッドへ押し倒す。
「んッ、ん!」
 背中を叩いて抗議するシンを無視して続ける。ますます口づけ激しく、シンの思考はままらなくなり始める。
 レイが口を離れて耳に首に滑っていく。
「はぁはぁぁ…」
 呼吸激しく喘ぐシンを横目にレイの手があらぬ場所へ伸びた。
 服の上からではあるが、下腹部をはらりと撫でられる。
「薬の世話にはなっていないのか。抗うつ剤の影響で性欲が低下しているはずだが。熱くなってる」
 羞恥心に顔を赤くしながらも、シンは考える。これを言ったらレイはどういう反応にでるのだろう。
 レイを喜ばすのだろうか?
「抗うつ剤は飲んでるよ…定量を今でも。だからこれはレイのせいでッ…」
「ふーん」
 レイの手が顔を撫でる。くすぐったい。
 また口づけが始まり、手は耳の後ろや首筋を撫でる。もう片方の手は下腹部にもどかしい刺激を与える。
 たまらなくなるシン。レイのうなじを指でなぞる。
「レイ、下、苦しい…」
 シンの下半身の着衣を取り払い、素肌をさらさせる。
 形を変えたものをまじまじとみつめるレイ。面白がって観察している風。
 あらゆる意味でシンがシンの身体がどいういう反応を示し、どういう痴態をさらすのか知りたいだけなのだと。
「観察するな……! つらいんだぞ」
 まるで知らない器官、知らない感覚。ギリギリと下半身が痛む。
「勝手に達するなよ。俺が宥めてやるまで」
「エロ! エロいんだよ、おまえは……!」
 ヒッと身体を跳ねさすシン。レイが指でそれをなぞり上げたせいだ。
「手か口か…」
 呟くレイ。
「手、手でイイから」
「手では味気ないな。自分で処理するのと同じだ」
 同じじゃない!!
 言う間もなくレイがそれを口に含む。
 口淫を受けているうちにそんなのはどうでもよくなる。レイの舌は口づけの時と同じくしなやかに繊細に動く。
 こらえ性のないシンがそう長く耐えられるはずもなく、レイの口の中へぶちまけた。
 シンは衝撃と快楽と痛みの三重奏に喘ぎ苦しむ。肩で息をしてそれらをやり過ごすのに猫のような体勢をとる。
 頭をベッドにこすりつけ、尻が高く上がっている。肘と膝を張っている。
「ああう…はう…」
 その流れでレイはシンを抱いた。
 今日のシンはより熱く、激しくレイを求めた。レイもそれに応えた。何もかも、悪い事を忘れられるように。お互いが混じり合うまで。
 
 シンにお咎めも懲罰もなかったことを、後になってレイは聞いた。


                                        つづく。

教官よく死ななかったなぁ、という突っ込みはおいといて。
本物と偽物の区別も付かなかったのかという突っ込みはおいといて。
{Z.O.E」は実在するゲームです。ホーミングレーザーも撃てます。快感です。
長かった運命以前もあと二回を残すのみです。
最後までお付き合い下さい。

  
posted by 松風久遠 at 15:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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