2013年08月31日

運命以前17


ハイ、運命以前第十七回をお送りします。

ヨウランのピンチは大したことないですが、
シンのピンチは大変です。
シン、ピーーーンチ!!

では、どうぞ。





17 ヨウランのピンチ、シンのピンチ


 何を血迷ったのか、シンが突然こんなことを言い出した。
「ホモってなに?」
 小学生のように澄み切った眼で尋ねてくる。
「具体的にどーいうことなの? ヨウランなら知ってるだろ」
「そんなことは…レイくんに聞いた方がよくわかるんじゃない?」
「当の本人に聞けるもんか」
 やっぱそういうことなワケおまえら。
「それは男女間で自然に湧き起こる恋愛っていう感情が、不自然に男同士の間に発生することだよ」
「仲がいいのとか友情との境界線はどーやって見分けんの?」
 シンが知りたいのはそこなのだ。
「ムツカシイこと聞くお子様だね!」
「ヨウランは絶対男を好きにならないの?」
「あり得ないね」
「なんでそう言いきれんのさ」
 シンが小首を傾げる。
「だって……相手が男だって言う動きようのない大前提があるもの」
「頭で人を好きになるっていうことか…?」
「いや、下半身」
「じゃあ何を根拠に言い切るんだよ。余計わかんない」
 ヨウランはしばらく、うーんと考えて、
「頭ん中でルナマリアを犯せ、ホラ早く」
 シンが眼をつぶって妄想を開始する。
 ルナマリアと睨み合いながら対峙する。
 二人とも身構えて間合いを取っている。
 まるでこれから一試合行うような。
 いや、だからベッドでなくリング上で。
「あっしまった。ストレート食らった!」
 右顎に一発、怯んだところを胸ぐらを掴まれ、一本背負い。
 ルナマリアが勝利の勝ちどきをあげながら、いつも通りシンの大事な所を踏みつける。
「あわあわあわ…!! 犯される!! 俺が、むしろ犯される! ギャー助けて母さん!!」
「シン…もう良いから! 眼を開けろ!」
 ハッと我に返るシン。
「あいつあぶねーやっぱコエー」
「…この場合あぶねーのは君ですから」
 ヨウランはヴィーノに助け船を求めたが、面白そうに見物するだけで、無視された。
「ルナマリア結構イケるのにな。パンチラ大放出の絶対領域保持者で。何でダメなの? 俺の頭の中じゃ、大活躍なのに」
「え? ルナ…友達なのに…そういうことに使うなよ、ルナを。汚すなッ、ヨウランの人でなし!」
 この時シンは既にルナマリアと友情めいた感情を持ち始めていたので、怒っているのだ。
「………何で怒られてんのかわかんない僕」
 ヨウランはシンに怒られて意気消沈した。
「ルナ姐がダメなら…メイリンで挑戦だ。シン、かわいいって言ってたろ」
「う、うん。がんばる」
 また目を閉じて妄想モードに入るシン。
 向かい合って服を脱がせようと、手をかけた所で:
「あーーーッ、ダメだダメだ。俺にはそんな鬼畜いこと出来ないッ」
「って、メイリンを何だと想ってんの?」
「妹」
「えーシンちゃん、妹としてかわいいって連呼してたワケ?」
「うん」
 シンは深く頷いた。
「ヒデェなァ。何気にろくでなしか? シン」
「どこが?」
 その質問はスルーされた。
「最後はじゃあ…レイで試してみな」
「……うん」
 しーーん。
 みるみる顔が赤く染まっていくシンを見て、答えを聞かずもがな。放っておくと鼻血とか出しそうだったので、ヨウランがストップをかけた。
「シンちゃんさあ…真性なの?」
「何?」
 シンが眉をしかめた。
「うーん。そうだな…例えば俺とこいつって中が良いだろ。ちょっと密着しすぎなくらいに」
 隣に座ったヴィーノの総人工色の頭をぽんぽん叩いた。
「うん」
 そこは否定しないシン。常々仲が良いなとうらやんでいたから。
「たまにホモなのかって疑惑をかけられんのよ。からかわれもするワケさ」
「へえ〜〜」
「でも俺はヴィーノをかわいがってても、なんぼ懐かれてもこいつにムラムラっときて、突っ込みたいとは一度たりとも思ったことがない。欲情を覚える気配すらない。そういうこと」
 ヴィーノは顔立ちは可愛らしい。黙っていればそういう手合いにはウケが良い。
「そういえば、二人を見てて気持ち悪いと思ったことないな」
「そう、そこ重要! 良いこと言ったシン! 俺とヴィーノがホモじゃねぇって証明!」
「少なくともヴィーノとは恋人関係には発展しないんだ」
「やめてくれよ、それ、何のホラーだよ」
 ヴィーノが可笑しげに口を挟んだ。
「やっぱホモは気持ち悪いよな…マズいよな……」
落ち込むシンが可哀想になったヨウランが補足説明をする。
「現実的に言うとだな、残念なことにコーディネーターにはホモが多いんだ。更に言えば、バイがデフォルトってくらい普通にいる」
 ヨウランがシンに、バイの説明をしてやる。
「軍において言えばその占める割合はもっと上がる」
「げ。そうなの?」
 知らなかった、とシンはぎょっとなった。
「権力に尽くして力を認められるのが男は好きだからね。特殊状況下では特に女より男との方が結びつきが強くなっちゃってねー思い込みで命とかかけちゃうから。もう熱病さ。同性愛が美徳とされた時代もあるし、実際に男の何割かは絶対に存在するし」
「所詮、オレたち元は女だもんね。染色体がXからYにたまたま変化しちゃっただけでさ」
 ヴィーノが笑いながらまた口を挟んだ。
「たまに頭いいこと言うね……」
「要するに境界線は欲情するかどーかってことになんの?」
「まぁねぇ。ものすっごい単純にわかりやすく言うとそうねー」
「待ってよ。さっきからフツーに成立するみたく言ってるけど男同士でどうやってやんの?」
「シンちゃんはさあ、ホント、キレイな少年だね」
 ヨウランは参ったとばかりに天を仰いだ。
「穴があるだろ。男にも唯一後ろに」
 ヴィーノがこそこそと言った。
「………嘘だろ? 出ても入れる場所じゃないだろ。ムリだよ」
「男はアホだから穴なら何でもいいのよ」
「だって、明らかに盛り下がるよ引くよ。どうすんの」
「だから向き不向きがあるって言ってんだろうに」
「よっぽど恋に狂ってるかイカれてるかしてなきゃ、あり得ない」
「気持ち良けりゃー排水口でもイケるんだよ」
「えっ、ホント?」
「嘘だよ」
 悔しそうにヨウランを睨むシン。
「ただの排泄口か、それとも性器かって議論まであるくらいだからな。そこそこの働きはするんだろう」
「気持ちいいのかな?」
「さぁ。俺は知らん。試す予定も機会も今後一切ないですから」
「万が一俺がホモでも二人は友達でいてくれる?」
 シンが不安げに訊いた。
「っていうか、俺の場合、レイ限定だけど」
「何を今更」
「オレもどっちでもいいよん」
「それより、その首筋の紅いのは虫刺されじゃないよね?」
「うん。レイに付けられた」
 その場がしんとなった。
「本番はやってないよ、キスしただけ!」
 シンが慌てて言い訳をする。
 突然突きつけられた事実に、ヨウランが頭痛を覚えていた頃、ヴィーノだけが面白がってニヤニヤしていた。
「いやーこれはシンを残して行くのがはばかられるにゃ〜」
「何?」
「俺ら明後日から十日間程、特別課外授業で他のコロニーに行くんだ、実は」
「成績優秀者上位五名の中に入っちゃってサ」
 場所は秘密で、かなり遠いらしい。秘密基地に最新鋭機や開発中の新型艦などを見学に行くのだそうだ。
「勿論ケータイも繋がんないから、シンちゃんには寂しい思いをさせるけど」
「おまえらって成績良かったんだ…カシコだったんだ」
 シンは何となく面白くない。
「俺は十日も暇を持て余すのか……」
 つまんないのー、とシンはチェアの背もたれに身体を埋めた。
「パイロット候補生として勉強に励んどけよ、そこは。詰め込み教育しちゃえよ」
 あと、とヴィーノが続ける。
「そのヒョロイ体躯をビルドアップするとかな」
「十日で筋肉つかねーだろ」
「若干はつくだろ。ドーピングでも何でも良いからやっとけよ」
「これ以上薬漬けになれって? 俺、最悪ヴィーノととっつかみあいで負けなきゃいいんだ」
「……それはどうなのよ? 赤服希望の最低ラインがヴィーノって、設定値低すぎだぞ! 志低ッ。小学生に勝つのも危うい非力市民ですよ?」
「昼飯代は口座に送っといてやるから、後はレイレイと仲良くしろよ」
 ちなみにヨッきゅんも一緒だから、と最後の希望まで打ち砕かれて、シンは肩を落とすのだった。

 その帰り道、シンは三人組に囲まれた。
「どけよ。通れないだろ」
「君に用があるんだよ、シン・アスカ」
「なに? 喧嘩ならもう売られても買わないよ」
「いいから来いよ」
 秀麗な顔に醜悪な表情を浮かべて、三人組はシンを拉致した。
 校舎の隅に連れて行かれて、シンはこれから自分の身になにが起こるのか、その展開を読めずに困惑していた。喧嘩でなけばれなんなんなのだろう。
「見ろよこいつ、キスマークなんか付けてるぜ」
「やっぱりレイ・ザ・バレルと出来てるってのは本当らしいな」
「レイ様がムリならこいつでも構わないよな」
 こいつらレイをそんな目で見てたのか!
 壁際に追い詰められて、シンは逃げ場を無くしていた。
「勝手なこというな!」
 薄々、自分の立場を理解したシンが叫ぶが、相手は少しも意に介さない。
「白い肌に紅い花。そそるねぇ」
 一人が、シンの首筋を指でなぞった。
 シンの身体が気持ち悪さに、ぞわぞわと寒気が襲った。
「離せ、離せよ!」
 目一杯暴れるが、両側から二人に羽交い締めをされて、ビクともしない。身動きがとれない。
 そのうち突き当たりを背に身体を押し倒されて、背中に廊下のひんやりとした感触が伝わった。
「せいぜい楽しませてくれよ」
 シンは戦慄した。
 今から自分はこの見も知らない誰かに犯されるのだ。
 自分がそういう対象になり得たということ。驚き、怒り、惨めさ、情けなさがごちゃごちゃになって頭の中を走り回った。これは尊厳の剥奪だ。力なき暴力だ。
 何よりもシンを支配したのは恐怖だった。
「やめろ、やめろよ!」
 シンは目の前に立ちはだかる奴に向かって、唾を吐いた。
 相手は頬に唾を食らって、僅かに不快に顔をしかめた。
 シンを捕まえている右の奴が、シンの制服のポケットを探し当て、ハンカチを取りだした。
「用意がいいでちゅねー、アスカくん」
 唾を吐かれた奴がそれで頬を拭い、それからハンカチを口の中に押し込まれ、シンは声を上げることも出来なくなった。
 レイにハンカチくらい紳士のたしなみとして持っておけ、と言われて持っていたのが徒となった。
「さて、ご開帳〜」
 シンに馬乗りになった相手が、シンの制服のボタンをかけていないジャケットを左右に開いて、緩く締めたタイを取り去ってしまう。続いてカッターシャツに両手をかけた。
 そして、力まかせに左右に開いた。
 ボタンが弾けて四方八方に散る。
 露わになった白い胸のあまりの白さに、相手が涎を飲んだのが分かった。
 胸の上ではレイから貰った首飾りのペンダントトップが天井の照明の光を受けて、きらきらと光った。
 レイ、助けてーーー!
 強姦魔の手がシンの右の花びらに触れようとしたその時、
「おまえたち、何をしている!!」
 レイが現れて、三人を疾風怒濤の如く倒してしまった。肘まで入れて、相手を気絶させる気満々だった。その手加減のなさに三人は無抵抗のまま倒れていった。
 レイは一人の胸ぐらを掴んで持ち上げると、荒々しく訊いた。
「誰の命でやった。首謀者の名を言え!」
「…ア……」
 そこでそいつは意識を手放した。レイは急に興味を無くしたように、それを投げ捨てた。
「シン……大丈夫か」
 レイの息は荒い。きっと急いでここまで走ってきたからだろう。
 シンはぼろぼろと涙を零した。零しながら口に詰め込まれたハンカチを吐きだした。
「レイ……レイ助けてって思ったら、ほんとに助けに来てくれた……」
 レイはボタンの弾け飛んだカッターシャツを前で合わせ、せめてシンの肌が見えないようにした。ジャケットの前をしめてボタンをかける。
「視界の端に連れ去られるおまえを見つけて…慌てて追ってきた」
「レイが慌てて?」
「ああ、ただ事じゃない雰囲気だったからな。それより、何もされなかったか」
「未遂で終わった。レイが来てくれたから、襲われずに済んだよ。レイ……」
 怖かったよ、とシンは床に膝をついたレイに抱きついた。
「ああ、怖かったな。もう大丈夫だ。大丈夫」
 レイがシンを抱きしめ返した。
 すすり泣くシンの頭を撫でてやりながら、シンをあやす。
 シンが落ち着くと、二人で弾け飛んだボタンを集めて回った。
 ランドリーに出して、シャツにボタンを縫い付けて貰わなくてはならない。
 レイはシンを人目から隠すようにして部屋まで戻ったのだった。

 翌日、レイはアンラを呼び出し、取り巻きの解散を打診した。アンラは中々承知しなかったが、レイの意志が固いことを知ると、渋々願いを聞き届けた。
「シンが襲われそうになった」
「それはまあ」
「おまえが命じたんじゃないだろうな」
「なんの話ですか。濡れ衣は御免ですよ」
 あくまでもしらを切るつもりなのか、真実、命じていないのか。
 どちらなのかレイには判断がつかなかった。


                                             つづく。

シンが反応するのはレイだけ。
レイがいなければ普通に女の子とデキていたでしょう。
シンが襲われて、レイが起こす行動が……来週は気が重いです。更新すんのヤだなぁ……




posted by 松風久遠 at 16:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。