2013年08月24日

運命以前16


運命以前第16回をお送りします。

飛び火した噂は学校中に広がっていて、シンは怒り、レイは静観し、対応はそれぞれ。
環境適応訓練で事故に巻き込まれたルナマリアとシンはどうなる。
いい加減自分で煽り文句考えるのが恥ずかしい上にイヤになってきた今日この頃。

では、どうぞ。





16 これは恋なのだ


 やはり、どうも周囲の様子がおかしい。
 レイと別れた後も、あちこちでヒソヒソ話をされる。シンを見て何やら、いつもより格段に多い。不愉快極まりない。
 シンが一人で歩いていて、ふと耳にした声。
「あれが……レイ……と前からあった……できてるって……ちょ……かわいい…じゃない?」
「何だってんだよ!」
 シンが睨み付けながら近寄ると、女子二人はあっという間にいなくなってしまった。
「怒ってるわねぇ〜。毛逆立てて威嚇してる猫みたくなってるわよ」
 背後からルナマリアが現れた。
「どうなってんだこれは! おまえ女なら何か知ってんだろ」
「まあね。女子の間で昨日の午後から爆発的に広まってる噂があるのよ」
「うぜぇ! おまえらはピーチクパーチクと……」
「まぁ、聞きなさい。尾ひれ背びれがついてんのかどーか確かめたくて、アンタとっ捕まえたワケ、あたしは」
 腰のくびれに拳を当てて、悪戯っぽく笑う。
「昨日ね、校舎の階段であんたたちを目撃した子がいるのよ。MS見学中に何やってたわけぇ?」
「え」
 シンは青くなった。あんなシーンを誰かに覗かれてた?
「どうもガッチリ抱き合って熱い抱擁を交わしてた上に、長らく見つめあってチューしちゃった所を見られたみたいね?」
「してない…」
 なんですって、とルナマリアが耳に手を当てるポーズをする。
「………」
「したのね」
 シンは当時のことを思い出して耳まで赤くなった。
「でも、キスは薬を飲ますための口移しだし、レイに一方的にすがりついてたのは俺だし…」
「はふーん? 遠目っぽかったから真実味はどうよ? って正直思ってたけど」
「あん時はそんな呑気な場面じゃねえんだよ。俺がヤバかったんだ。下手すりゃバイオレンスな。あんまりだ、ネタにされてたまるか」
「アホね。女子の噂の飛散速度は光より速いのよ。スギ花粉より強烈なのよ。しかも相手がレイときちゃーね。ともかくアンタとレイがデキてるって萌えな既成事実はもう完成されてんの。手遅れよ」
「うわあああ! おまえらみんな死ね!!」
 シンはその場を走り去った。

「今、走り去ったの、シンじゃないか」
「おわっ、レイ……そうだけど?」
「何だ。押し付けられたコレをやろうと思ったのに」
 レイの手には小さなカワイイ包みがあった。取り巻きはいないにこしたことはないが、一人だとこれだから困る。
「またプレゼント? 辻斬りしなかったでしょうね」
「丁重に頂いておいた。食い物はシンが始末してくれるしな」
「…ちょっとくらい笑ってあげた?」
「そこまでサービスするいわれはない」
 レイをじーーーーっと見つめるルナマリア。
「何か」
「いいえ。レイ様はやっぱり毛筋程も動じてないのねと思って」
「何の話だ」
「アンタただ鈍いだけってオチじゃないでしょうね……」
 ルナマリアが噂話云々を話して聞かせた。
「シンがキレてた。これまでないくらいに嫌がってたわ。噂話に。きっとレイに火の粉がかかると思うから、覚悟しなさいネッ」
 レイの尻を揉みがてら、走り去るルナマリア。硬直するレイ。
「………」
 何故避けられないのか。
 噂はどうしようもない。消す術なし。一人一人にやめろと言って回るワケにも行かず。放っておくしかないのだ。
 人の噂も七十五日。
 今に始まったことではない。慣れっこのレイは対処法もよく知っているのだった。

 翌日からシンはレイと一緒に朝飯を食べるのをやめた。レイと離れていれば噂が消えるのも早いだろうという寸法だ。
 レイとの憩いのひとときを奪われてシンは怒り心頭だった。
「あーもー、何だよあの噂!」
 全体の三割しかいない女子の間だけでなく、男子の間でももっぱらの噂となっていた。
 部屋に帰り着いたシンは制服のままベッドにダイブした。
「我慢しろ。不可抗力の場面を見られたのだから、どうしようもない」
「でもさあ」
「他人に傷つけられることを怖がるな。一々気にしていたらキリが無い。他人の言葉は身になるものだけ拾って、不利益なものは流せ。おまえは怖い物が多すぎだ」
「レイがなさ過ぎなんだよ::」

 レイもレイで不本意な噂を立てられてご立腹だった。溜まったストレスはピアノで晴らす。例の小ホールまでやってきたレイは、ピアノの鍵盤を一音一音、人差し指で弾いて歌を乗せる。シンがよく歌っているフレーズだった。
「バラバラに 壊れた ガラスみたいにーーー」
 その後はシューマンの「トロイメライ」を弾いて気を落ち着かせたのだった。

 Aクラスに振り分けられてから、授業というより訓練の意味合いが濃くなって来た。
 様々な環境の変化に耐える為、今日も無重力を体験するという訓練がシンたちを待っていた。
 小部屋に四人ずつ入れられて、無重力という非日常を体験する。宇宙に出れば無重力が日常となるのだ。士官を目指すなら知っておくべき状況だろう。
 右側には鏡が一面に張ってあるが、マジックミラーであることは周知の事実だった。向こう側のコントロールルームでは教官が候補生の一挙手一投足を見張っている。
 無重力化が開始される。ふわりと足下が浮き、段々立っているのも難しくなった。やがて完全に無重力となり、身体は宙を頼りなく泳いだ。
「うわ、なんか空飛んでるみたい」
「ホント、身体がかるーい」
 シンとルナマリアが無重力でも体勢を保っているのに対して、残りの二人はぐるぐる回っていたり、天地逆転していたりで慣れない無重力に上手く対処出来ないでいるようだった。
 無重力化が終わり、重力が足下から戻ってくる。シンとルナマリアが綺麗に足から着地したのだが、残りの二人は腹ばいになって落ちた。
 訓練終了のアナウンスがあって、部屋を出ようとしたのだが、シンとルナマリアが出ようとした所でドアが突然閉じた。他の二人はもう外へ出てしまっている。
「どうなってんだ?」
「ダメよ、どうやっても開かない」
 内側から開けられる筈のドアが、どう操作しても受け付けない。
「開けろよ、おい!」
 シンがマジックミラーの向こうにいるであろう教官に食ってかかった。
 だが、レスポンスはない。
 そのとき、無人の筈のコントロールルームに人影があった。人影はプログラムを作動させるとにやりとほくそ笑み、姿を消した。
『只今からこの部屋は冷凍されます』
 非情な合成音声の告げる事実に、二人は絶叫した。
「なんだって?!」
「ちょっと、誰か、誰かいないの?!」
「どうしよう、ルナ」
「どうしようったって……誰か気付いてくれることを祈りましょ」
 どんどん下がる室温。吐く息が白くなり、手がかじかむ。
 パネルに表示されている室温の数字がどんどん下がっていく。
 皮膚が痛みを覚えた頃、吐息が凍って床に落ちた幻影を二人は見た気がした。
 マイナス三十度。
 五分を過ぎれば凍傷になるという。バナナも凍って釘が打てる。バラがバラバラになる。そんな状況だった。
「俺たちマグロじゃねぇ!!」
「凍る! 凍る〜〜〜!!」
「寒い! 寒いっていうか、痛ぇ。嫌だ、寒いのも痛いのも嫌だ! 温もりが欲しい!」
「あんた男でしょ、ギャーギャー喚いてないで打開策を考えなさいよッ」
「ルナ! 二人で温めあおう。今日この日の為だけに俺とおまえは男と女だったんだ!」
「アホかっ、抱きつくなッ、コラ!! こんなときだけ」
 ドアを叩くルナマリアの腰にしがみつき、シンは頭を背に押し当てて俯くと、動かなくなった。鈴の音がガンガン頭を揺らしていた。
 生命の危機にさらされて、フラッシュバックを起こしたのだ。
「ちょ、シン! どうしちゃったのよ、こら」
『緊急解除』
 空気の排除が始まり、ドアもスライドして開いた。
「開いた! シン、助かったわよ!」
「大丈夫か、貴様たち!」
 教官が部屋に入ってきた。異常事態に気付いて戻ってきたらしい。
「は、はい……なんとか」
 答えるルナマリアのまつげは凍って白くなっていた。
 ビクとも動かないシン。
 ルナマリアはそのままシンを引きずりながら、手近なソファーに移動した。
 シンを寝そべらせ、膝枕をしてやる。
 シンのまつげも凍っている。白い肌が余計白く見えた。
 シンの調子が良くなるまで、黙ってそのままにした。
 どんな慰めも、励ましも、安っぽく浮きそうだから。
 シンはこういう方向の問題を抱えていたのだとルナマリアは痛感した。
 どんな言葉もシンの胸まではきっと届かない。届いてもシンは受け取らず、捨てるだろう。
 そう、今のシンには心配しているとかそういうのは気持ちの押し付けなのだ。想ってるんだよ、ということを遠くから密かに示すだけでいいのだ。
 それが精一杯なのだとルナマリアは想った。
 十五分ほどそうしていたろうか。シンが目を覚まして起き上がった。
「あれ、俺……」
「覚えてない? 冷凍されてマグロになるとこだったって」
「あぁ……」
 シンは頭をかきながら謝罪した。
「ごめんな、ルナ。俺だけ気絶して」
「ほんとよ。まったく。こういうときはありがとうでしょ」
「ありがとう」
「…ほんとに大丈夫なの?」
「うん、平気。じゃあな」
 そう、少しはにかんで手を振り、去って行くシンの背を見送りながら、ルナマリアは想う。切ないと。

 十月の花は「藤袴」秋の七草の一つである。花の色が藤色で、花弁の形が袴のようであることからこの名がついた。
 また、花が変わってる、月が変わったのかと思いながらシンはレイに今日あった出来事を話した。
「それでさ、危うく俺とルナマリアは冷凍マグロになるところだったんだ」
「コントロールルームが無人になっていたのか?」
「多分。誰もいなかったんだと思う」
「それはおかしな話だな」
 レイは考え込んだ。
 また、シンが危ない目に遭った。
 生徒がまだ部屋にいる状態で教官たちがコントロールルームを無人にすることがあるだろうか。
 となれば、誰かが教官たちを何らかの理由で連れ出した?
 そこには隠された意図があるように思えてならない。
 レイの脳裏にアンラの顔がちらつく。
「まぁ、助かってよかった。無事でいてくれて何よりだ」
「それをいうなら、アカデミーで凍死者なんて笑えないニュースになんなくてよかったよ」
「俺も友人二人の冷凍マグロになった姿を見ずに済んで一安心だ」
「友人? 俺ってレイの中で友人でカテゴライズされてんの?」
「そうだが、何か?」
「ただの友人にあんなことする?」
 いつかのキスのことを言っているのだと気付くのに数秒を要した。
 あれ以来、二人の間に進展はない。
 レイが恋だと認めたくないのと、憎からず思っている感情がぶつかりあって先に進めずにいるだけなのだ。
「噂の方はどう?」
「相変わらずだ。人目を気にせずやってしまったことが敗因なのだから仕様がない」
「噂の中じゃあ、俺たちもう恋人だよ」
「嬉しそうだな」
「うん。なんかくすぐったい。レイはどう?」
 レイは問われてしばらく考えた。
 シンが恋人扱いされて嬉しそうにしているのは分かる。しかし、自分がどうなのかと訊かれると返答に困った。
「俺はレイのこと好きだよ」
「俺は……よく分からない」
「キスまでしといて、ひどい……」
 シンが悲しそうな表情で目を伏せた。
「それはおまえがキス以上の関係になりたいということか」
「え? それはちょっと違うかも……」
「じゃあ、もう一度口づけて確かめてみよう」
 レイが早急に唇を重ねた。
「ん…あ…」
 シンが甘い声で鳴く。
 熱に浮かされたように二人はお互いを貪り合った。
 レイは唇を離すと、ソファに押し倒しながら、シンの首筋に吸い付いた。紅い跡が花を咲かせて、カッターシャツの襟ぐりまで続いた。
「んっ、あっ、んん」
 痛みとくすぐったさにシンが身もだえる。
「痛かったか?」
「ちょっとだけ。でも、もうちょっとだけしよ?」
 すると、シンはレイの首に両手をかけて、キスを求めてきた。
 レイは応じて二度目のキスを深く交わした。
 なるべくシンが気持ちよくなるように、酔えるように注意しながら。
 シンがバスルームへ消えて、何やら青い顔で直ぐに戻って来た。
「レイ、どうしよう。首筋に跡が残ってる。明日までに消える?」
「無理だろうな」
「え〜〜どうしよう、なんとか隠せないかなぁ」
「また新しい噂が増えそうだな」
 レイが可笑しそうに笑った。
「レイの馬鹿っ!」
 シンがバスルームに消えていくのを眺めながら、レイはやはりこれは恋なのだろなと微笑した。

 シンは翌朝からレイと朝食を摂るのを止めるのを止めた。



                                        つづく。

なんか話があちこち行って読みにくくてスミマセン…
レイがピアノで歌ってた曲は、iTunesストアでTRAXで検索すると出てきます。
まさに使った歌詞の部分が聞けますので興味のある方は試聴してみてください。
無重力訓練なんかあるのかどうか知りませんが、その辺は適当に流して下さい(笑
ようやくシンへの恋心を認めたレイは、そのうちとんでもない行動にでます。お楽しみに。




posted by 松風久遠 at 16:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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