2013年08月10日

運命以前14


はいはい、毎日暑いですね。
運命以前第十四回をお送りします。

審判の日、シンはパイロット養成クラスに入れるのか?
誕生日はどう過ごすのか?

ではでは、どうぞ。





14 バースデイ


 世界は自分とは関係のない所で動く。
 自分を置いて流れる。
 その流れに戻らなければ追いつかなければ。

 地球に帰りたい。
 でも、帰る家も国もない。
 居場所はここにしかない。


 八月三十一日。審判の日。
 士官候補生たちは誰ともなく食堂に集まっていた。
 シンとルナマリアも漏れなくそこにいた。今日はレイも一緒だ。
 運命の行く先が決まる、合否判定のメールを待っていた。
 ピコーンとメールの着信音がそこかしこで鳴り響いた。シンもタブレット端末を操作してメールを開いた。
 メールには、
『シン・アスカ。最終考査と適正検査の結果、パイロット育成科への進級を認める』
 旨のことが書かれてあった。
「キターーーー!!」
 目の前ではルナマリアも同じようにガッツポーズをしている。
 レイは当然だな、という顔をして落ち着き払っていた。
 食堂内に歓声とため息が入り交じった。
「やった、やったわよ、シン」
「俺もやった、やったよルナ!」
 二人はダンスを踊って喜びを噛み締めた。文字通り小躍りしたのだった。

 明けて翌日、シンは十五歳になった。
 夢で家族に祝ってもらえるかと思ったが、その望み薄く、家族の夢は見なかった。
 シンが落ち込んでいると、代わりにレイが祝ってくれた。
「シン、誕生日おめでとう」
 そう言って、何か包みを渡された。長方形の箱で、丁寧にリボンまでかかっている。
「プレゼントまでくれるの?」
「ああ。記念だからな」
「俺は金がないから、何もやれないよ…ゴメン」
「気にするな」
「じゃあ、レイも誕生日おめでとう」
 シンは不意をついて、レイにキスをした。
 レイは面食らったようだったが、すぐに微笑を作った。
「ありがとう」
「包み、開けてもいい?」
「ああ」
 リボンをほどいて包みを破って、開けた箱から出てきたのは首飾りだった。
 ペンダントトップには、金色や空色の水滴型の石が、幾重にも葡萄状に連なっている。鎖は本物の十八金だった。
「ラブラドライトという石だ。大宇宙のエネルギーとつながり、直感力や創造力を高めるらしい」
 インスピレーションを意味する石だった。他にも仕事運や財運をアップさせる効力がある。
「可能性や明るい未来を象徴するのだそうだ」
「へぇ〜ありがと。こんな高そうなものもらっていいの?」
「いい」
 シンは早速首にかけてみた。石は朝日を浴びてキラキラと光った。
「似合うかな」
「よく似合っている」
「へへへ」
 シンはペンダントトップをシャツの内側に入れて隠した。まるでレイの髪と目の色と同じ取り合わせの石。これでレイといつも一緒のような気がして、シンは心強い思いがした。

 パイロット養成科はSとAの二つのクラスに別れる。毎日考査があり、成績順で入れ替え戦が行われるという、サバイバルのような授業体形だった。毎日が戦いだ。
 レイはSクラス、シンとルナマリアはAクラススタートだった。
 早く上にいかなければ、赤服は着られない。
 誰もが競争相手だった。これから蹴落とし合いが始まる。
「Sクラスは遠そうだなぁ」
「そうね、遠いわね」
 ぐだぐだ言いながら、今日はSクラスに上がれなかった二人はとぼとぼ歩いていた。
「戦術の解析って難しすぎだよな」
「意味わかんないわよね。女性指揮官にはなれそうにもないわ」
 それぞれの部屋へ帰って、無理難題に近い課題とにらめっこすることになる。
「ご馳走様でした」
 夕食を平らげたシンは、シン・アスカ再構築委員会の面々プラス・メイリンにしばらく待つように言われたので、待っていた。
 人がはけた頃、
「シンちゃん誕生日おめでとうー!」
 と、ケーキがワンホール、シンの目の前に置かれた。
「これ、オレらからのプレゼントな。おまえ甘いモン好きだろ」
 白いデコレーションケーキには苺が乗っていて、チョコレートのプレートにチョコペンで『シンちゃん、お誕生日おめでとう』と書かれてある。
「え。あ、ありがとう。みんな俺の誕生日なんて知っててくれてたのか」
「当然じゃん」
「これ俺が全部食うの? みんなで分けて食べない?」
「シンが人に気を使う日が来るなんて! お姉さん嬉しい。じゃあ、みんなで食べましょう」
 食堂で人数分の皿とフォークを借りて来る。ケーキを切り分けるのはルナマリアの係だった。
 綺麗に切り分けられてたケーキを食べながら、今度は個別にプレゼントを貰った。
 ルナマリアからは、
「これから来るわよ」
 と、カリソン・フレというマカロンをぺっちゃんこにしたようなお菓子を貰った。
「ありがとう、ルナ」
 妹のメイリンからは、手作りのクッキーを。
「これ、調理室借りて作ったの。良かったら食べて?」
 マユもよくホームメイドのお菓子を作って食わしてくれたよなぁ、と思い出しつつシンはメイリンから包みを受け取った。
「ありがとう、メイリン」
 ヴィーノからは怪しげな記録メディアを渡された。
「そのうち意味がわかってくるから。大切にしとけ」
 くくく、と意味ありげに笑う。
「お、おう…わかった。ありがと」
 ヨウランからは紙の雑誌を貰った。なんでもグラビアというものらしい。
「グラビアは紙に限るぜ、シンちゃん」
「あ、ありがと」
 祝ってくれる人がいないなんて嘘じゃん。俺にはこんなにも祝ってくれる友達がいる。
 シンの胸はいっぱいになった。
「シン、誕生日おめでとう」
「ハッピーバースデー!」
 その響きが食堂に、シンの耳にいつまでも残って消えない気がした。

 シンはコンビニに寄ってから部屋へ戻った。デスクには新しい花が飾ってある。九月の花は「玉簾」白く美しい花を「玉」に葉が集まっている様子を「簾」に例える。
「レイ、ケーキ食べる?」
 余った分を貰ってきたので、レイに進めたのだが、レイはあっさり断った。
「いや、いらない。甘い物は嫌いだ」
「じゃあ、アイスは?」
 コンビニの袋を上げて見せる。
「いや、だから、甘いものは…」
「抹茶ならいけるだろうと思って買ってきたんだけど。俺のなけなしの金で」
 なけなしの、の所を強調して言うと、そぞろながら承諾した。
「パッケージを開封しろ。そしたら食ってやるから」
「あーはいはい。開けて差し上げますよ、お坊ちゃま」
 開封してレイにアイスを渡した。
「レイ、誕生日おめでとう」
「ありがとう」
 レイが微笑を浮かべてアイスを受け取った。
 レイがスプーンを突き立てて食べようとすると、シンが止めに入った。
「ちょっと待った。あとちょっと溶けるのを待ってから」
「………」
「アイスにも食べるべきタイミングがある。適度に溶けたところを撹拌して空気を含ませてから食うと安物でもそこそこいけるんだ」
「無駄な知識だな」
「貧乏人が豊かに生きる為の知恵だ。それよりちょっとこっち来て立って」
「なんだ」
 レイがシンの前に立つと、シンがレイに抱きついた。
「レイに歌のプレゼント」
 シンは静かに歌い始めた。
『白い雪のじゅうたんから
 凜と伸びる新芽のよに
 暗く冷たい僕の心に 
 君は君は光をくれた

 出会い別れ繰り返して
 やっと君に出会えたんだ
 何も知らずに 微笑んだ君
 僕は僕は 誓うよ永遠に
 悲しみが二人を包み込んでも
 握り締めた手 離さないから
 明日も来年も十年先も
 ずっと隣にいるから

 遠い記憶辿りながら
 いつも何か 探していた
 今はわかるよ 全てのことは
 君に君に 出会うためだと
 冬の終わり告げる 桜のように
 長い旅路に咲いたキセキよ
 いつも いつの日にも 輝きながら
 僕の心を 照らしておくれ
 明日も来年も百年先も
 君を見つめているから』
 体温と一緒に身体に響く声に、レイは酔いしれた。
「どうだった?」
 レイの身体を解放したシンが感想を尋ねた。
「心地よかった。なんという歌だ?」
「『キセキノハナ』っていう歌だよ。さあ、ちょうどアイスが食べ頃だ」
 デスクに向かい合わせに座って、アイスを食す二人。
「どう、うまい?」
「…まずくはない」
「何でうまいって言えないの? ねえ? 素直じゃないね」
 自分はストロベリー味のアイスを食べながら、虎視眈々とレイの抹茶味を狙っていた。
「ねぇ、一口ちょうだい」
「嫌だ」
 シンがレイのカップにスプーンを突っ込もうとするが、レイがさっとのけた。
「あっ! いいじゃんくれよ!!」
「嫌だ。おまえが食えと言ったくせに」
「けちっ、このエセセレブリティー!」
 尚、スプーンを伸ばそうとするシン。それを避けるレイ。
「うまくねーんだろ」
「まずくはないと言った。おまえになんかやるか」
 レイはかたくなに意地悪を決め込んだのだが、その実、拗ねるシンを見て遊んでいたのは秘密だ。

 メイリンの焼いたクッキーは普通に美味かった。いかにもホームメイドといった素朴さが彼女らしくて可愛かった。
 ルナマリアがくれたお菓子はまたもや食べたことのない食感と味覚の業物だった。思いついたパティシエは天才だ。
「寝る前にそんなものを食べたら太るぞ」
 二人の女の子から貰ったプレゼントを食べていたら、鬼教官のレイの注意が飛んだ。
「いいの、いいの。ちょっとぐらい太った方がちょうどいいんだ」
「無駄に脂肪をつけるのは良くないと言っているんだ」
「わかったよ、残りは明日食べますぅ」
 ヴィーノのくれた記録メディアは一体何のデータが入っているのだろうか。気になるが、後になったらわかると言っていたので時を待つことにした。
 ヨウランがくれたグラビア雑誌はシンには刺激が強すぎた。
 年頃の乙女が豊満な肉体を水着という戦闘服で包んで、雑誌の向こうにいるであろう男子に向かって挑発的な笑みを浮かべている。
 中には局部が見えそうな際どいポーズを取る子もいて、ベッドの上に寝っ転がったシンは思わず雑誌の角度を変えて見えやしないか、おっさんみたいなことを試していた。
「そんなことをしても見えないところは見えないぞ」
 などと、レイに冷淡に言い放たれ、シンは唸った。
「もう少し、あとちょっとで見えそうなのに」
「紙の雑誌か。珍しいな」
 レイが食いつくとは驚きだ。シンはおもしろがってレイに雑誌鑑賞を勧めた。
 レイに見せたらどんな反応をするのか? 実験だ。
 ベッドの上で真面目に鑑賞するレイ。
「どう? どのコがいい?」
 一通り目を通したレイが無味乾燥な感想を述べた。
「彼女たちは半裸を他人に撮らせて一体何が嬉しいのか。この写真が男どもにどういう用途で用いられるか分かっている筈だろう」
「お金の為とか…あとは若くてキレイな自分を自慢したいとか、形に残しておきたいとかだろ?」
「若く美しい肉体を持っていても男はそういう気は起きんな」
「あったらおかしいだろ、それは」
「…これだ、これが一番いい。このふくよかな曲線美は芸術の域だ」
 と、とあるページを開いてよこす。
「そーゆー視点じゃなくて、ちょっと……」
「次生まれ変わったらその身体がいい」
 レイが示したのは、ヨウランもガチで押しの『ジュナ』だった。この時代の人気実力ともにナンバーワンのグラビアアイドルだった。生きていればとうに百歳を越えていよう。
「結局…レイが女の子に興味がないのは良く分かったよ」
「生物学的にな、興味が無い」
 トドメの一手だった。
 そんな男と深くキスしてしまった自分はどうなんだろう。また、それを受け入れ、何の違和感も感じていないというのは一体どういうことなのか、シンは考え込んですぐに考えるのをやめた。あまりに不毛だったからだ。




                                            つづく。


シンちゃんお誕生日おめでとうの回でした。
劇中の歌は「ryrycoのキセキノハナ」です、たぶん。いくらググっても、リリコが出てこないのでもう活動してないのかも知れません。出てくるのは肉食系映画コメンテーターのあの人ばかり。iTunesストアで検索すると、夏川りみバージョンが聞けます。ピアノ伴奏の本人のも。
シンがレイにもらったネックレス、思わず十八金にしてしまいましたが、やっぱり高いのかな。ま、レイはお金持ちだから金に糸目をつけない、ということでいいか。
十五歳になったから、もうエッチしてもいいよね〜。




posted by 松風久遠 at 16:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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