2013年07月27日

運命以前12


どうも。運命以前12回をお送りします。

シンがベッドにやって来るのを叱責するレイ。
果たしてシンは安息の地を手に入れられるのか?

あとは喧嘩です。売られた喧嘩は買うぜというスタンスのシンですが、今回はさすがに…
そしてレイの秘密が明らかに。

ではどうぞ。




12 喧嘩売買禁止令


 レイはこの夜も、またも同じように目が覚めた。
 シンがまた隣で寝ているではないか。これは間違いなく確信犯だ。ムカーーっときたレイは思わず首を絞めそうになるが、そこは抑えてシンの鼻をつまんでやった。
 ビクッとシンの身体が跳ね上がる。
 シンが苦しげに飛び起きた。
「んがッ!?」
「目が覚めたか。俺の声は聞こえるか、頭は動くか、シン」
「レ…レイ……」
「なぜおまえが俺の隣で寝ている。ここは俺の寝床だ。俺のテリトリーを侵すな」
「お、怒ってるのかよ」
「いいや。これから怒るかどうかは、おまえの答えいかんだ」
「だって、一緒に寝てって頼んだら許してくれた?」
「断る」
「ほら…だから致し方なく」
「俺の了承が得られそうにないから、勝手に好きにするなんて、おまえはどうしてそう手前のことしか……」
「前よりはずっと眠れるようになったけど、それでも何度も目は覚める。夜中に目が開くとたまにすごく寂しくなる。レイにくっついて寝ると、よく眠れるんだ」
 頭を抱えてため息をつくレイ。許しそうになっている自分を戒めているようだ。
「ああ……駄目だ駄目だ」
「……ケチ」
「何だと……怪しげな人形でも買ってそれに抱きついて寝れば良い」
「塩化ビニールは冷たいからダメだ」
「毛の生えた巨大なヌイグルミに抱きついて寝ろ」
「それじゃ変態だ。俺、十四なのに男なのにかわいそうな子だ」
「もういい、俺は寝る。あっちへ行け」
「何でだよォ、レイ〜一緒に寝てよ。レイの意地悪…冷血人間」
「うるさい! うるさい!!」
 レイはシンをベッドから蹴り落とすと、さっさと寝てしまった。
 渋々とベッドに戻るシンだったが、翌朝にはまたレイの隣にいたという。
 それ以降、毎日のようにシンはレイのベッドにやって来ては眠るようになった。初めはシンをベッドへ運んで返していたレイも、そのうち蹴り落とすようになった。
 それでも懲りずにレイのベッドへやってくるシン。
 最後はレイが根負けしてシンを追い出すこと諦めたようだ。
 結局、シンはやっと見つけた安息の地で眠れることになり、レイと同じベッドで眠ることが多くなった。
 ただし、最初から一緒にはねない。シンが隙を見て眠っているレイの隣にお邪魔するのだった。
 レイは人肌の温もりにどぎまぎしながら、空調の効きすぎたこの部屋では、シンの熱は丁度良いのかも知れないと思う他なかった。

 ルナマリアと教室を出て、寮へ帰る途中のことだった。
 久々に喧嘩を売られた。
「子山羊ちゃん、地球産の可哀想なスケープゴート」
「明日も授業妨害するのか? 教官に楯突くのか。目障りなんだよ。牧場へ帰れよ」
「ちょっと顔貸せよ」
 相手は三人だった。
 ルナマリアが不安がって、シンの制服の袖を引っ張る。
「大丈夫だから。ルナは先に帰ってて」
 売られた喧嘩は買うのが身上だ。
「シン……!」
 ルナマリアは氷づけにされたようにその場に立ちつくしながら、死地へ赴くシンの背を見送るしか為す術がなかった。
 戦場は校舎裏の室外機の立ち並ぶ、所々雑草で覆われた更地だった。
 そこにいたのは十人もの少年たちだった。後ろに回った三人も合わせて十三人。誰も彼もが薄笑いを浮かべて獲物が来るのを待っていた。中にはレイの取り巻きの姿も見えた。
 さしものシンも怯みそうになった。
 だが、逃げるわけにはいかない。
「さて、始めますか」
 後ろから殴りかかってきた奴を、ひょいと避けて、回し蹴りをこめかみにキメる。左右から突進してくるのを半身分避けて、正面衝突させる。軸足を狙ってきた足を、飛んで避けた。こいつらはプラントのお坊ちゃんばかりで喧嘩慣れしていない。これまでアカデミーで多くの敵を倒してきた歴戦の勇士であるシンとは違って、背後さえ取らせなければどうということはない。
 それでも数の利が相手にはある。シンも無傷で、とはいかない。顔面に食らった猫パンチのせいで鼻血が迸った。それを拭いながら、次に遅いかかってきた相手の攻撃を左へ流し、その様に首へ手刀をたたき込む。次に合気道で培った技で転ばせ、関節を外す。
 ぎゃあ、とかぐうとか、蛙が潰れたような声が次々上がった。
 うっかり後ろを取られてしまい、二人に羽交い締めをされてしまう。そこへ前方からここぞとばかりに、殴る蹴るの応酬が襲う。
 シンの怒りが爆発した。
 シンは渾身の力で羽交い締めを抜け出し、前方の奴を明星という下腹部の急所を蹴りつけて片付ける。羽交い締めをしていた右の奴には天倒、頭頂部をかかと落としで黙らせる。左の奴には人中、鼻の下に一発をお見舞いした。
 最後の方になってくると、逃げ出そうとする者が現れるが、シンがそれを許さない。引きずり混んで、当て身を食らわす。または、肘当てを持てる限りの力で打ち込んだ。
 三十分後、その場に立っているのはシン一人だった。
 満身創痍ながらシンは勝利した。肩で息をしつつ、その場を後にする。
 身体のあちこちが痛い。十三人から受けたダメージは思ったより大きいらしかった。
 シンは手すりにすがりつくようにして、歩を進めた。
 その横を青い髪の美男子が、ほくそ笑んですれ違った。彼は、シンの来た方向へ真っ直ぐ歩いて行く。

 部屋にやっとのことで帰り着いたシンを迎えた相方は、さほど驚きもしなかった。
「また、喧嘩か」
「そうだよ。鉄面皮のお坊ちゃんたちのお陰でさ」
「制服を脱げ。今からならランドリーに出せば明日の朝には出来上がる」
 泥だらけの制服を、シンは言われるまま脱いで部屋着に着替えた。
 すると、救急箱を膝に用意したレイがソファで待っていた。
 シンは大人しく介抱された。
 レイが、あえて忠告するとしていわく。
「売られた喧嘩を逐一買っていたのでは、おまえの身が持たないぞ」
「悪いのはあいつら。俺は何も悪くない。被害者は俺」
「なら、被害者なのはおまえが弱いからだな」
 ムッとしたシンが言い返す。
「強くなって加害者側に回らなきゃな。そうしたら、もう奪われない。強くなりたい。その為に力が欲しい」
 またシンが剣呑な言葉を吐く。レイは現実を突きつけて返す。
「だったらもっと勉学に励むことだな。実技ばかり良く出来ても上には行けないぞ」
「そりゃそうなんだけどさぁ」
 座学は実技ほど身が入らないのである。戦争の歴史であったり、ナチュラルとの確執と争いについてなんて欠伸が出る。
「そういや、レイの取り巻きの奴も何人かいたぜ」
「なんだと」
 レイの頭に嫌な考えが浮かぶ。シンがこれだけ喧嘩をふっかけられるのも、裏で糸を引いている奴がいるのではないか。
 そしてその誰か、とは……いや、それはいささか突飛な発想か。
 シンの鼻に詰め物をして、頬に湿布を貼り付けて、治療は終わった。
「夕飯は食えそうか」
「うん。腹減った」
「ならば、行くか」
 シンはレイと連れだって食堂へ向かった。
 行きしなに制服をランドリーの受付へ持って行く。レイの言った通り、明日の朝には出来上がるとのことだった。
 食堂ではルナマリアがたった一人、俯いた様子で食事を摂っていた。
「ルナマリア!」
 シンが声をかけると、顔を上げて更に立ち上がる。
「シン!」
 夕食をのっけた配膳板をルナマリアの前の席に置く。すると、間髪を入れずにルナマリアが叫んだ。
「あんた大丈夫だったの? やだ、あちこち怪我だらけじゃない。心配したんだから!」
「ごめん。でも大勝利だったから。十三人相手に八面六臂の大活躍だぜ」
「十三人?! 下手したら死んでるわよ。無茶ばっかりして、あんたって子はもう」
 シンが心配で食が進んでいなかったルナマリアは、立ち上がって、机ごしにシンを抱きしめた。
「ル、ルナ;目立つよ」
「いいじゃない、このばか!」
 ルナマリアは、ひとしきりほとんど文句の心配事をしゃべると、シンを解放した。
「レイもこのばかに何か言ってやってよ」
「そうだな。もう喧嘩はするな。売られても喧嘩を買うな」
 シンの隣に配膳板を置いて、レイがまっとうなことを言った。
「いい? もう喧嘩は買わないって約束して」
「えぇ、それは売る奴に言ってくれよ」
「ダメ! あんたから悪事に手を染めるのをやめるの。じゃなきゃ、あんな奴らと同じレベルですって言ってるようなもんよ」
「それもそうだな」
 レイが納得する。
「うぅ……わかったよ。もう喧嘩は売られても買わない」
「約束する?」
「…約束する」
「レイ聞いた? 証人になってね」
「わかった。証人になろう」
 レイまで巻き込んで、もう二度と喧嘩はしませんと誓わせられたシンだった。

 七月の花は「朝顔」。日没してから十時間後に開花する。朝のうちが花に勢いがある。
 運命の半年まで一ヶ月。今更ながらシンも座学に力が入り始める。毎日行われる小テストの結果も悪くはない。このままいけば控え目に見ても上から四十人に入れそうだ。
 それにもう一つシンには気になっていることがあった。
 レイがたまにふらりといなくなることだ。
 いったいどこで何をしているのか。
 取り巻き連中を煙たがっているレイのことだ、終業後の自由時間にまで彼らと過ごしているとは考えにくい。
 シンは率直に聞いてみることにした。
「レイってたまにふらりといなくなるよな」
 パソコンのキーを叩いていた音が、不意に止まった。
「どこで何やってんの?」
「知りたいのか?」
「うん、知りたい知りたい」
 どうしようか、レイは思案しているようだった。
「では、特別に教えてやろう」
 来い、と言ってレイは立ち上がった。
 連れて行かれたのは校舎の隅っこだった。パネルには「小ホール」と書かれてある。
 リーダーにレイの携帯端末をかざすと、カチャリとロックが外れた。
「俺の携帯端末で開くようにしてもらっている」
 中に入ると、レイは明かりを灯した。講演会でも開けそうな、すり鉢状の座席と半円形の舞台が現れた。
 舞台の上には立派なグランドピアノが鎮座していた。
 レイは階段を下りて、舞台に上がり、ピアノへと歩み寄った。シンもその後に続く。
 ピアノを開けると、白い鍵盤にレイは指を滑らせた。それと同じくらい滑らかな音の連なりが舞台に響いた。
 レイが椅子を引いて座り、本格的にピアノを演奏し始めた。
『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』モーツァルトが十三番目に書いたセレナーデであることからセレナーデ第十三番とも呼ばれる。
 美少年とピアノ。なんて画になる取り合わせだろう。
 レイのピアノの腕はかなりのもので、シンの胸にもぐっとくるものがあった。
 時に優しく、時に激しく、感情豊かに音は踊る。
 レイが弾き終わると、シンは拍手と惜しみない賛辞を送った。
「まぁ、こんなものだな」
「レイすっごい。ピアノ弾けたんだな。プロみたいじゃん。ピアニストになれば良かったのに」
「一時はそう思うこともあったが。今はそんな考えは捨てた。俺は軍人になる」
 シンが歌手になればいいのに、と仲間たちに言われたことと似ている。それに対する答えまでも。
「レイはこんな所でガス抜きしてたんだな」
「傲岸不遜の同室者から逃れるのにな」
「傲岸不遜はないだろ」
 レイはシンからストレスを与えられる度にここへ来てストレス発散の為に、ピアノを弾いていたのだ。
 レイがまた弾き始めた。その前奏でシンにも曲目が何なのか分かった。
 『GREEENSLEEVES』イングランドの最も古い民謡だ。電話の保留音にもよく使われている。
 シンはレイの隣に互い違いで、ピアノを背にして座ると、歌い始めた。
『眠れない夜が来て 心は漂う
 終わりのない物語 あの日の恋人よ
 若すぎる二人には 闇夜は深すぎ
 朝日も見つけられずに 別れた青いとき
 今なら 枯れ果てた愛も蘇る
 拙い言葉さえ 愛しく思える
 激しく愛し合う 影は蜃気楼
 最後の恋だから 記憶は消せない』
 美しいピアノの旋律に美声が相まって、完璧な一曲が出来上がった。
 音と声が溶け合う。
 思いがけない共演に、ピアノから指を離したレイが、シンを見て微笑んだ。シンもそれに答えて微笑した。
 言葉はいらない。
 しばらく微笑みあいながら、至福の時が流れた。
 この時、お互いの距離がまた一歩縮まったのだった。


                                         つづく。


十三人を相手に大立ち回りのシンでした。ちょっと多すぎかとも思いましたが、プラントのお坊ちゃんたちが弱かったということで。
劇中に出てきた「グリーンスリーブス」は大竹祐季のものです。



posted by 松風久遠 at 17:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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